インプラント治療における「オッセオインテグレーション」とは

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラント治療において、「インプラント体」とあごの骨の結合は非常に重要です。「オッセオインテグレーション」は、インプラント体に使われているチタンとあごの骨が直接結合することを指します。

 

この記事では、オッセオインテグレーションの概要や上手くいかない場合のリスク、インプラント治療の失敗を防ぐ方法など詳しく解説します。

目次

1.インプラント治療の仕組みとは

オッセオインテグレーションについて説明する前に、インプラント治療について解説します。

インプラント治療は、虫歯・歯周病・事故などで失った歯を補うために行います。チタンなどでできたインプラント体をあごの骨に埋め込んで歯根の代わりにし、人工歯をかぶせて「アバットメント」と呼ばれる連結部分に固定する治療法です。

 

インプラント体によって人工歯をしっかり固定できるため、インプラント治療後の噛む機能は天然歯とほぼ変わりません。また、歯ぐきから歯が生えているように見えるため、自然な印象になります。

 

噛む機能と見た目がほぼ本来の歯と変わらないので、食事や会話なども気兼ねなく楽しめるでしょう。

 

ただし、歯ぐきを切り開いて骨に穴を開けるなどの外科処置を伴うため身体の負担が大きい、基本的に保険適用されず1本あたり30~40万円ほどかかるなどのデメリットもあります。

2.オッセオインテグレーションってどんなもの?

オッセオインテグレーションの概要やどのくらい時間がかかるかを解説します。

2-1.オッセオインテグレーションの概要

オッセオインテグレーションとは、インプラント体に使われているチタンとあごの骨が結合することを指します。オッセオインテグレーションによる結合は、光学顕微鏡レベルで直に密着し、インプラント体にかかった力が骨に直接伝わるほど、しっかりしたものです。

 

私たちの身体は、異物から身を守るために自分以外の生物に由来する細胞や人工物などに対し、強い拒否反応を示します。

 

チタンが骨と結合する性質があると判明するまでは、さまざまな素材をインプラント体に使用していました。しかし、身体がインプラント体を異物とみなし拒否反応を起こしてしまい、骨が結合しない場合が多かったといわれています。

 

しかし、1952年にスウェーデンの学者であるペル・イングヴァール・ブローネマルク博士が、実験中に偶然、純度の高いチタンと骨の組織が結合することを発見。ラテン語の「Osseo(骨の)」と英語の「integration ( 結合)」、2つの単語を組み合わせ、オッセオインテグレーションと名づけました。

 

その後の研究により、オッセオインテグレーションがインプラント治療に応用されるようになりました。

多くの金属は生体とはあまりなじみません。しかし、チタンは生体組織との親和性が高く、身体に取り入れても異物として認識されない素材です。そのため、折れた骨が再生してくっつくといった身体の治癒と同じ仕組みが、インプラント体周辺で起きます。

 

新たにできた骨がチタンの周囲につき、少しずつ表面の細かな部分に入り込み、インプラント体と骨がしっかり結合するのです。

 

オッセオインテグレーションの発見により、インプラント治療の成功率は大幅に向上しました。

 

ちなみに、チタンは金などの貴金属よりも丈夫で、腐食しにくく、金属アレルギーの原因になることもほとんどありません。幅広い人が安心して長く使い続けられるといえるでしょう。

2-2.オッセオインテグレーションにかかる時間

インプラント手術後に、オッセオインテグレーションによってインプラント体と骨が完全に結合するには、ある程度の時間がかかります。

 

骨と結合しやすいインプラント体の形状などの研究の結果、少しずつ結合が終わるまでの期間が短縮され、現在は45~60日程度が目安です。

3.オッセオインテグレーションが上手くいかない理由

インプラントの成功率は高く、90%以上といわれます。しかし、まれにオッセオインテグレーションが上手くいかず、あごの骨とインプラント体が結合しないケースがあります。

 

オッセオインテグレーションが正常に進まないと、インプラント体があごの骨に固定されず、再治療が必要となるかもしれません。

 

オッセオインテグレーションが上手くいかない主な理由を紹介します。

3-1.骨の状態が悪い

骨が、吸収と生成を繰り返すプロセスを「リモデリング」といいます。リモデリングによって、インプラント体が骨に少しずつ埋まり結合していきます。

 

しかし、リモデリングが正常に行われない場合は、インプラント体と骨がしっかり結合しない可能性が高いでしょう。

 

骨粗しょう症などが原因で骨の吸収と生成のバランスが崩れている、歯周病であご骨が破壊されて状態がよくないといった場合は、リモデリングが正常に行われず、オッセオインテグレーションが上手くいかないかもしれません。

3-2.糖尿病などの全身疾患や歯周病にかかっている

糖尿病をはじめとする全身疾患にかかっていたり、治療前・治療中に歯周病になったりした場合は、インプラント体とあごの骨が結合しにくくなります。また、手術による傷の治りも遅くなります。

3-3.喫煙の習慣がある

タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させる作用があります。喫煙により血流が悪くなると、骨をはじめとする組織の修復に必要な酸素や栄養が届きにくくなり、骨の結合に悪影響があります。

3-4.手術中のオーバーヒート

インプラント手術では、ドリルを使ってあごの骨にインプラント体を埋め込む穴を開けます。穴をあける際は、ドリルの摩擦熱による骨へのダメージを防ぐため、注水して冷やしながら行います。

 

注水による冷却が不充分だったり、ドリルを強く骨に押しつけたりすると、摩擦熱によって骨が火傷のような状態になる「オーバーヒート」が起こり、オッセオインテグレーションが進みにくくなります。

3-5.しっかり固定できていない

インプラント体があごの骨にしっかり固定できていない場合、骨の結合がスムーズに進みません。固定が不充分になる理由の1つは、インプラント体の品質です。質の低いインプラント体は、工場での製造時に混入物が入ってしまう場合があります。

 

また、オッセオインテグレーションは、チタンだけに起きる現象です。チタン以外のものが混入していると、骨結合が進まない可能性があるでしょう。

3-6.細菌感染

インプラント手術後に細菌感染を起こすと、オッセオインテグレーションが上手く進まず、骨が結合しない可能性があります。また、合併症を起こすリスクもあるため注意が必要です。

3-7.強い衝撃を受けた

インプラント手術後に、治療箇所が強い衝撃を受けると、オッセオインテグレーションに悪影響が出てしまいます。

 

インプラント体とあごの骨がしっかり結合するまでは、仮歯を揺らす、噛むときに力を入れすぎる、激しい運動をするなど、刺激を与える行為は避けましょう。

4.インプラントの脱落を防ぐ方法

オッセオインテグレーションが上手くいかないと、インプラント治療は成功しません。また、結合に成功してもその後の生活習慣などが原因で、インプラントが脱落してしまうケースがあります。

 

インプラントの脱落を防ぐ方法を紹介します。

4-1.経験豊富な歯科クリニックを選ぶ

インプラント治療の経験が豊富な歯科クリニックであれば、オッセオインテグレーションが上手くいかないケースについても熟知している可能性が高いでしょう。

 

患者の状況に合わせて、骨量が足りないのであれば再生療法などで骨を増やすなど適切な対応ができます。

 

また、オーバーヒートや細菌感染といった手術時のトラブルを起こすリスクも低く、インプラントの成功率が高まります。

4-2.充分な検査をしてくれる歯科クリニックを選ぶ

インプラント治療は、高度な精密さが求められる治療法です。あごの骨をはじめとする口の中の構造や歯ぐきの状態などをしっかり検査し、正確な情報を把握することで、リスクを軽減できるでしょう。

 

インプラント治療で重要な検査は、下記の通りです。

 

・既往歴や歯の悩みなどをヒアリングする問診

・レントゲン撮影

・CT撮影

・虫歯・歯周病検査

・血圧測定

 

特に、あごの骨の厚みや神経・血管の位置を把握するCT撮影は、非常に重要です。あごの骨の厚さが足りないと、インプラント体を支えきれず脱落の原因となります。また、神経や血管の位置を誤って認識し、傷つけてしまうと大きなトラブルになりかねません。

4-3.格安インプラントに飛びつかない

あまりにも安いインプラントは、粗悪なインプラント体を使用している可能性があります。

 

粗悪なインプラント体は、製造過程でチタン以外の物質が混入しているケースがあり、スムーズにオッセオインテグレーションが進まないかもしれません。

4-4.禁煙する

タバコによる血流の悪化は、オッセオインテグレーションに加え歯ぐきにも悪影響を及ぼします。

 

歯周病と似た病気である「インプラント周囲炎」を引き起こすリスクがあるので、要注意です。インプラント周囲炎が進行すると、あごの骨が破壊され、インプラント体を支えるのが難しくなり、グラグラするようになります。最終的には、インプラント体が抜け落ちてしまう恐ろしい病気です。

 

インプラント手術を受けると決めた時点で、禁煙するのがベストです。難しい場合は、本数を減らし少しでもタバコの悪影響を軽減しましょう。

4-5.セルフケアをしっかりする

インプラント手術後にインプラント周囲炎が進行すると、あごの骨に炎症が起き、オッセオインテグレーションを妨げる可能性があります。

 

インプラント周囲炎の予防には、毎日の歯磨きが重要です。正しいブラッシングを意識し、歯垢や食べかすなどの汚れをしっかり取り除き、細菌の増殖を防ぎましょう。

5. オッセオインテグレーションはインプラント成功のカギ

オッセオインテグレーションとは、チタンでできたインプラント体とあごの骨が結合する現象を指します。オッセオインテグレーションの発見により、インプラント体があごの骨にしっかり結合するようになり、インプラント治療の成功率が向上しました。

オッセオインテグレーションが上手く行かない主な理由は、骨の状態が悪い・糖尿病などの全身疾患や歯周病にかかっている・喫煙の習慣があるなどです。

 

インプラント体とあごの骨がしっかり結合しないと、インプラントがぐらぐらする、脱落するといったリスクがあります。

 

インプラントの経験が豊富・検査が充実している歯科クリニックを選ぶ、格安インプラントを避けるといった方法で、インプラント治療の成功率は上がります。

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