根管治療で使うMTAセメントとは?成分や効果は?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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根管治療では、神経を取り除いた後にスペースが空いた根管に詰め物を入れる必要があります。詰め物には何種類かありますが、殺菌作用の高さなどメリットの多さから注目されているのが「MTAセメント」という材料です。

 

この記事では、MTAセメントはどんなものかや成分、効果など詳しく解説します。

目次

1.MTAセメントとは?どんな成分が含まれているの?

根管治療で重要な役割を果たすMTAセメントについて、概要・成分・根管治療でどのように使われるかを解説します。

1-1.MTAセメントの概要と成分

MTAセメントとは、歯科治療に使用するセメントで、1993年に米国ロマリンダ大学の教授らによって開発されました。2007年に日本でも発売を開始し、優れた殺菌効果などの特徴から、歯髄の保護など幅広い場面で使われています。

 

MTAセメントの主な成分は、二酸化ビスマス・ケイ酸二カルシウム・ケイ酸三カルシウム・アルミン酸カルシウム・石膏といった歯の成分に含まれるカルシウムです。

1-2.MTAセメントは根管治療でどのように使われるの?

根管治療は、「歯の神経」と呼ばれる「歯髄(しずい)」に虫歯が達したときに行われる治療です。根管治療では、歯髄を取り除いた後に空洞になった根管を、洗浄・除去して無菌状態にします。その後、根管に薬剤を詰める「根管充填(こんかんじゅんてん)」という処置をして封鎖し、人工歯を装着します。

 

根管充填は、再感染を防ぐための大切な処置です。歯髄を除去した根管をそのままにすると、空いたスペースで細菌が繁殖し、治療した根管が再び感染を起こし、再発してしまう場合があります。根管充填に使われる材料のひとつが、MTAセメントです。

 

従来、根管充填に詰め物として使われていたのは「ガッタパーチャポイント」と呼ばれる天然ゴムを原料とした材料です。ガッタパーチャポイントは根管充填に使用される詰め物として、150年近くの歴史があり、今でも最も多く使われている材料です。また、保険適用されているので、安く使用できます。

 

しかし、ガッタパーチャポイントは、根管のスペースを埋めるだけで、特に効果はありません。歯根の外に出てしまうと、身体にとっては異物となり、トラブルの原因となります。そのため、根管内に穴ができている、歯根の先が壊れているといった場合は、ガッタパーチャポイントを使用した根管治療は困難でした。

 

たとえ治療したとしても、感染してあごの骨の吸収や歯茎の炎症を引き起こし、結果として歯を抜かざるを得ないケースが多いといわれています。

 

MTAセメントには、ガッタパーチャポイントにはない封鎖性・殺菌などの効果があります。MTAセメントの登場により、従来は根管治療の成功が難しかったケースでも、歯を残せる可能性が大幅に高まったのです。そのため、日本では普及が遅れていますが、海外では根管充填の薬剤として広く使われています。

2.MTAセメントの効果とは

MTAセメントの代表的な効果は以下の通りです。

2-1.封鎖性が高い

MTAセメントは歯に接着する性質があるため、ガッタパーチャポイントのように接着剤を使用する必要はありません。さらに、固まると膨らむ性質があるため、根管内の隙間がなくなり、細菌が繁殖しにくくなります。

 

一般的な歯のセメントは、時間が固まると縮む性質があるため、治療から時間が経つと根管内に隙間ができ、細菌が侵入するリスクが高まります。

 

根管治療で大切なのは、根管内の再感染の防止です。他の材料と比べて封鎖性の高いMTAセメントの使用により、根管治療の成功率は高まるでしょう。

2-2.優れた殺菌効果

MTAセメントは強アルカリ性の材料で、大部分の細菌を死滅させる働きを持ちます。根管治療では、徹底的な殺菌と再感染の予防が重要です。しかし、どんなに根管治療中に除菌してもほとんどの場合、完全な無菌状態にならずに、わずかに虫歯菌が残ってしまいます。

 

殺菌効果に優れるMTAセメントを使用すれば、残った細菌を死滅させられるため根管治療が上手く行き、天然の歯を残せる可能性の向上が見込めます。

2-3.生体親和性がある

MTAセメントは、細胞を載せて培養できるほど身体との親和性に優れた物質です。そのため、使用しても身体への影響が少ないと考えられます。そのため、歯の穴を埋める、歯根の先端部分を塞ぐといった、身体に直接触れる部位にも使用する際も、ほぼ心配いりません。

2-4.硬組織形成作用

MTAセメントには、少しずつ「水酸化カルシウム」を放出することにより組織を刺激し、歯や骨の再生を促す「硬組織形成作用」があります。

 

どのくらい再生されるかは個人差がありますが、失った組織の再生により歯が長持ちする可能性が高まるので、大きなメリットといえるでしょう。

 

なかでも重要なのが、「歯根破折(しこんはせつ)」の予防です。歯根破折とは、根管治療後の抜歯の主な原因のひとつで、歯根が割れる、折れるといった症状を指します。抜髄すると歯がもろくなり歯根破折のリスクが増すので、MTAセメントの使用は歯の寿命を延ばす有効な方法です。

2-5.親水性に優れている

歯科治療では完全に乾燥した状態で、治療できるケースはほぼありません。根管治療も同様で、根管内に、血液・浸出液を含む成分が多少残っている状態で処置します。根管充填を行う際は、完全に乾燥しているのが理想ですが、実際には難しいとされています。

 

MTAセメントは、親水性が高く水に溶けやすいため、ある程度水分が残っていても、適切な処置ができます。

2-6.レントゲン不透過性

MTAセメントは、レントゲン不透過性があるため、レントゲンで状態を確認できます。そのため、根管充填後のレントゲン撮影により、適切な処置ができたかを把握し、万が一の場合もすぐに対処できます。

3.MTAセメントのデメリット

メリットの多いMTAセメントですが、以下のようなデメリットもあります。

3-1.費用が高い

海外では根管治療の成功例として広く使われているMTAセメントですが、日本では普及が遅れています。保険適用されるのは、歯髄を残すために行われる「直接覆髄法(ちょくせつふくずいほう)」に使用する時のみです。根管治療の充填剤として使用する場合は、保険適用になりません。

 

MTAセメントを使用した根管充填は、全額自己負担です。MTAセメントそのものの費用は、30,000円前後が目安でさらに、付随する処置も保険適用外になります。マイクロスコープを使用し、MTAセメントで根管充填を行った場合の費用の目安は、50,000〜100,000円ほどになるでしょう。

 

ガッタパーチャポイントを使用した根管充填は保険が適用され、3割負担の場合、治療費の目安は歯1本につき590〜900円です。

 

このように、ガッタパーチャポイントとMTAセメントどちらを使用するかによって、かかるコストが大幅に異なります。治療前に、MTAセメントを使用した場合の見積りを出してもらうのがおすすめです。

 

ただし治療費は高額になりますが、再発時の治療費や身体の負担、歯を失ってインプラントや入れ歯が必要になるリスクを考えると、MTAセメントを使用するメリットは大きいでしょう。

3-2.専用の器具がないと処置が難しい

MTAセメント専用の器具やマイクロスコープなどを使用しないと、充填が難しいケースがあります。成功率を上げるためには、設備が充実した歯科クリニックで治療を受けるとよいでしょう。

3-3.再根管治療ができない可能性がある

根管治療をした歯が細菌に再感染した場合、根管内の詰め物などを全て除去し徹底的に除菌する「再根管治療」を行います。しかし、MTAセメントは場合によっては一度固まると取り除けません。そのため再根管治療ができず、外科的な処置または抜歯が必要となるケースがあります。

3-4.取り扱っている歯科クリニックが少ない

MTAセメントは、日本では直接覆髄法に使用する場合以外は、保険適用になりません。さらに、価格も高いため、使用している歯科クリニックは限られています。

 

そのため、MTAセメントを使用して根管充填したい場合は、ホームページなどをチェックして、使用しているクリニックを選ぶのがおすすめです。

4.MTAセメントの使用で治療の成功率がアップ!

MTAセメントは、根管充填に使用する歯科治療用のセメントです。2007年に日本で発売されるようになった新しい材料で、海外では広く使われています。

 

根管充填に最も多く使われている材料であるガッタパーチャポイントとは異なり、封鎖性・殺菌効果などが高く、根管治療の成功率を高めるメリットがあります。MTAセメントの登場により、それまでは歯を残すのが難しかった症例でも、維持できるケースが確認されています。

 

しかし、治療費用が高額・再根管治療ができないなどデメリットもあるので、歯科クリニックで説明を受け、比較検討をするのがよいでしょう。

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