インプラントは「副鼻腔炎」のリスクがありますか?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラントの治療後、頻繁に鼻詰まりを起こしたり、顔に痛みを感じたりなど、副鼻腔炎を発症する方がいるかもしれません。

歯の治療であるインプラントと鼻の症状、一見関係のない部位の治療と症状ではありますが、治療が原因で副鼻腔炎を起こしてしまう方も実際います。

なぜインプラント治療が副鼻腔炎を発症するリスクがあるのでしょうか。

今回は、インプラント治療と副鼻腔炎の関係についてまとめました。

目次

1.副鼻腔炎とは?

副鼻腔炎というのは、名前の通り、副鼻腔に炎症が起きている状態の病気です。

鼻の横や口の上辺りに、前頭洞・篩骨洞・上顎洞・蝶形骨洞の4つの空洞があるのですが、そこに炎症が起きます。

特に炎症が起こりやすいのが上顎洞です。

上顎洞は名前の通り、上顎の上にあります。

 

3ヶ月以上副鼻腔炎の症状が長引くと、蓄膿症と呼ばれる慢性副鼻腔炎と診断されることがあります。

1-1.副鼻腔炎の症状

副鼻腔炎の症状には次のようなものがあります。

 

・鼻詰まり

・黄色や緑色の鼻水、膿が出る

・臭いのある鼻水が出る

・咳や痰が出る

・頭が重い、痛い

・顔が痛い

・口臭がひどくなる

など。

 

人によって症状の程度はさまざまです。

1-2.副鼻腔炎の原因

副鼻腔炎は風邪やアレルギーがきっかけで起こることが多いです。

風邪の細菌やウイルス、またアレルギーなどが原因で、鼻水が出ることがありますね。

その鼻水によって鼻の通り道が塞がれると、分泌物や膿を排出できなくなります。

結果、分泌物等が副鼻腔に溜まり、副鼻腔に炎症が起こるのです。

 

また、副鼻腔炎は上の奥歯の虫歯や歯周病が原因となることもあります。

上の奥歯は、副鼻腔の上顎洞に近い位置にあるからです。

虫歯や歯周病が進行すると、原因菌が歯の神経や周囲の組織まで感染が広がることがあり、その感染が副鼻腔まで広がると副鼻腔炎を発症することがあります。

歯が原因で副鼻腔炎を起こしている場合、通常の副鼻腔炎の症状に加えて、歯を噛み合わせたら痛みが生じたり、歯が浮いたように感じたりする場合もあります。

この場合、虫歯や歯周病を予防することが副鼻腔炎のリスクを下げることにも繋がります。

 

虫歯や歯周病は細菌による疾患なので、副鼻腔の炎症につながるということはイメージしやすいですが、同じ歯科の分野であるインプラント治療と副鼻腔炎の関係はどのようなものなのでしょうか。

2.インプラントと副鼻腔炎の関係

インプラント治療により副鼻腔炎が発症してしまうケースには、主に以下の2つのケースがあります。

2-1.インプラント体を入れる前の骨造成治療の際

インプラント体とは、人工歯根のことで、歯を失った部分の顎骨に埋める人工歯を支える土台のことです。

このインプラント体を埋め込むには、顎骨の状態が良いことが条件となります。

顎骨の厚み、量がインプラント体を埋め込むのに充分でなければ、インプラントの手術は行えません。

 

もし厚みや量が足りない場合は、手術をする前に骨造成治療という顎骨を増やす治療を行います。

インプラント体がしっかりと顎骨に固定できるよう、顎骨の状態を整えるのです。

この治療を上顎に受ける際、上顎洞の粘膜が傷ついたり破れたりすることがあります。

粘膜が傷つくと、そこから細菌感染が起こり、副鼻腔炎の原因になることがあります。

2-2.インプラント体の埋め込み手術の際

また、インプラント体を上顎に埋め込む手術を行う際にも、副鼻腔炎が発症するリスクがあります。

インプラント体を埋め込む際には、顎骨にドリルで埋め込み穴を開けますが、そのときにドリルで粘膜を傷つけたり、突き抜けてしまったりすることがあります。

また、インプラント体自体が粘膜を傷つけてしまうこともあります。

 

粘膜を傷つけたときはもちろん、突き抜けてしまうと、細菌感染を起こすリスクが高まります。

結果、副鼻腔炎を引き起こしてしまう原因となります。

3.インプラントが原因で副鼻腔炎になった際の対処法

インプラントが原因で、副鼻腔炎になった際にはどのような対処が必要でしょうか。

3-1.まずは医師と相談

まずは副鼻腔炎の症状が、インプラント治療が原因のものであるかどうかなど、医師に診てらい相談してみましょう。

歯科医師に相談する方が早期に診せられる場合はインプラントを治療した医師に相談してください。

まずは症状を緩和したいという場合は、耳鼻咽喉科で処置してもらっても構いません。

3-2.症状の緩和の対処

医師に相談すると、副鼻腔炎の症状を緩和させるため、抗生物質を処方されたり、痛みや腫れによる炎症を抑えるために痛み止めや抗炎症作用のある薬を処方されたりすることがあります。

用法を守り、しっかり服用するようにしましょう。

また、炎症の起こっている部分を局所的に洗浄したり、うがいの指導をされたりすることがあります。

3-3.再手術を行う

インプラント体が粘膜を突き抜けてしまった場合は、一度インプラント体を抜きます。

その際に感染がすでに起こっている場合は、症状の緩和治療を行います。

 

細菌感染や炎症の治療後、再度インプラント体を埋め込む角度等を検討した上で、再手術を行います。

3-4.症状が長引く場合

副鼻腔炎の症状が長引く場合には、耳鼻咽喉科で追加の治療法について相談してみましょう。

インプラント治療を受けた歯科医院で、専門の耳鼻咽喉科を紹介してもらえることもあります。

4.インプラント治療で副鼻腔炎を起こさないためには

インプラント治療が原因で、副鼻腔炎が起こるのを防ぐためには、インプラント手術にて次のような注意が必要です。

4-1.上顎のインプラント治療は要注意

インプラント治療によって副鼻腔炎が起こるケースがあるのは、上顎のインプラント治療の際です。

特に奥歯は副鼻腔の上顎洞に近いため、治療中に粘膜を傷つけることで細菌感染が副鼻腔炎につながることがあります。

 

インプラント治療を受けるということは、何らかが理由で歯を失ったケースがほとんどでしょう。

歯が抜けると、その歯のあった場所の顎骨は痩せて薄くなります。

顎骨が薄いと治療の際に、粘膜を傷つけ、細菌感染を起こすリスクが高くなってしまいます。

 

上顎の奥歯をインプラント治療する際にはこのようなリスクがあることを、患者自身も事前に知っておくといいでしょう。

4-2.検査に基づく綿密な治療計画を立ててもらう

インプラント治療は、人工歯根となるインプラント体をどの位置に埋めるのか、どの角度で埋めるのかがとても重要です。

粘膜を傷つけないよう、十分に配慮しながら埋め込むには、事前の検査やシミュレーションに基づく、綿密な治療計画を立ててもらいましょう。

 

副鼻腔の位置を考慮し、インプラントの配置や深さなどを検討した、最適な治療計画であれば、副鼻腔炎を起こすリスクが下げられます。

4-3.医師の知識・経験などの確認

しっかりと治療計画を立ててもらったとしても、その治療を行う医師の技術力も大切になります。

インプラント治療は高い技術力に加え、豊富な知識や経験が必要とされる治療ではありますが、歯科医師であれば特別な免許を持たなくても治療できます。

そのため、安心して治療を受けるには、患者側として、医師がこれまでにどのような経験があるのか、治療症例数などを確認するといいでしょう。

 

また、インプラント認定医や専門医などの資格を持っているかにも注目してみましょう。

 

その他、患者に合った適切なインプラントを選択することも、副鼻腔炎を予防するのに大切なことです。

歯科医師が知識を持って、患者の状態に合わせたインプラントを選択することが、インプラント治療の成功に繋がります。

4-4.術後の適切なケア

インプラントの手術後は、術部周辺に炎症を起こしやすい時期でもあります。

術後は適切な口腔ケアを行うとともに、抗生物質などで炎症を抑えるなどの対処が必要です。

 

また、インプラント治療前後は必ず禁煙するようにしてください。

喫煙は手術部の傷の治りを遅くする原因になり、細菌感染しやすい口内環境を作り出してしまいます。

できればインプラント治療を機に禁煙をお勧めしますが、禁煙が難しいという場合も、インプラント手術後は必ず禁煙するようにしましょう。

5.インプラントが原因で副鼻腔炎になることも!事前の知識と医師への相談で安心できる治療を選ぼう

インプラント治療が原因で、副鼻腔炎になることがあります。

特に上顎の奥歯の場合、副鼻腔に位置が近いこともあり、治療によって粘膜を傷つけたり、突き抜けてしまったりすることで、細菌感染が起こり、副鼻腔炎を発症することがあります。

副鼻腔炎になるリスクを下げるには、インプラント治療前にしっかりとした治療計画を立ててもらうこと、顎骨の量や厚みなどが治療に十分であるかなどを確認してもらうことが大切です。

 

もし、インプラント治療後に副鼻腔炎のような症状があれば、インプラント治療を受けた歯科医院か、耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。

状態によっては、インプラント手術が再度必要になる場合もありますが、症状が長引くと辛いものです。

我慢せず、医師に相談するようにしてください。

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