糖尿病でもインプラントはできますか?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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糖尿病を持つ人は、高血糖により免疫力が落ちているため、外科手術の後に感染症を起こしたり、傷がなかなか治らなかったりするリスクが高いと言われています。

インプラント治療は口内の治療ではありますが、インプラントを顎の骨に埋め込む外科手術をする必要があります。

そのため、糖尿病の人はインプラント治療のリスクも高いと言われています。

しかし、インプラント治療はさまざまなメリットも多い治療。

リスクが高ければ、メリットを我慢してでも、インプラント治療を避けた方がいいのでしょうか。

 

今回はインプラント治療と糖尿病について、関係やどのようなリスクが伴うのかまとめました。

目次

1.糖尿病とはどんな病気?

糖尿病とは、膵臓が体内に入った“ブドウ糖”を分解できず、有効的に使われないまま尿に出てしまう病気です。

健康な人は膵臓のランゲルハンス島という場所で、インスリンを作ります。

このインスリンが、血液中に含まれるブドウ糖やアミノ酸といった栄養素を細胞に取り込む働きをします。

 

しかし、糖尿病の人は膵臓がインスリンを必要な数を作らず不足したり、作用が低下してしまったりすることがあります。

その結果、血液中のブドウ糖の濃度が高くなり、高血糖になります。

1-1.糖尿病のタイプ・原因は?

糖尿病の原因はさまざまあり、その原因によって糖尿病のタイプが分けられます。

1-1-1.1型糖尿病

子どもや若い人に多く見られる糖尿病は、1型糖尿病と言います。

原因は明らかではありませんが、インスリンを作る膵臓の細胞が壊されることで糖尿病になります。

 

1-1-2.2型糖尿病

日本の糖尿病患者の約9割が2型糖尿病だと言われています。

遺伝的な原因もありますが、過食、運動不足、肥満、ストレスなどの生活習慣や、加齢などが原因となり発症する糖尿病のタイプです。

一見肥満ではなくても、内臓脂肪の多いメタボリックシンドロームの状態になると、発症しやすいと言われています。

 

1-1-3.妊娠糖尿病やその他の糖尿病

妊娠中に糖尿病とまではいかなくても、糖代謝異常の状態になることがあり、これを妊娠糖尿病と言います。

肥満、高齢妊娠、2型糖尿病患者が周りにいると、起こりやすいと言われています。

 

また、そのほかに遺伝子の異常によるものや、他の病気や服用している薬が原因で糖尿病を発症するケースもあります。

1-2.糖尿病の症状

糖尿病になり、高血糖になると微小血管の障害を起こしたり、組織や臓器の低酸素状態を起こしたりします。

その結果、エネルギーが不足し、疲れやすく、倦怠感などの症状が出てくることがあります。

 

また、喉が渇きやすい、口の中が渇きやすいといった自覚症状を感じる方もいます。

これは分解されなかった糖を尿で出すときに、たくさんの体内の水分が使われ、多尿になる傾向があるためです。

 

その他、白血球の一種である“好中球”にも障害を起こすことや、高血糖により免疫反応が弱くなったり、血流が悪化したりすることで、感染症にかかるリスクが高くなります。

内臓の血流が悪くなると、肺炎や胆嚢炎、膀胱炎などにもかかりやすくなります。

 

さらに、このような糖尿病が進行すると、さまざまな合併症を起こしやすくなることもあります。

特に怖いのが神経障害という合併症です。

神経障害は、痛みを感じる神経に障害が生じる病気なので、病気の症状に気づきにくく、病気の発見を遅らせてしまいます。

2.糖尿病と口の関係

糖尿病は高血糖による全身症状を引き起こしたり、感染症のリスクを高めたりする可能性があるとわかりましたが、口の中にはどのような症状が出やすいのでしょうか。

2-1.唾液の分泌が減る

糖尿病が進行すると、免疫機能が低下します。

それに伴い、口の中では唾液の分泌が減ることがあります。

また、多尿により脱水状態になることも多く、口の中が渇きやすい状態が続きます。

 

唾液には口内の自浄作用や抗菌作用があります。

そんな唾液の分泌が減り、乾いている状態が続くと、虫歯菌などの細菌が繁殖しやすくなるのです。

2-2.歯周病が悪化しやすくなる

糖尿病の人は免疫力が低下し、歯茎の炎症が起こりやすくなります。

その上、唾液の分泌によって歯周病の原因菌も繁殖しやすい状態のため、歯周病が悪化しやすい状態が続きます。

そのため、歯周病は糖尿病の合併症の1つであるとも言われています。

2-3.歯周病の悪化による糖尿病の悪化も

また、歯周病が糖尿病を悪化させてしまうこともあります。

歯周病がひどくなり、炎症が続くと、TNF -αという炎症性物質が大量に生成されます。

その炎症性物質が血液中に大量に流れ込むと、膵臓で作られるはずのインスリンの働きが妨げられ、高血糖が悪化してしまうのです。

 

このように口内の状態と糖尿病には、相互的な関係があります。

しかし、逆に考えれば、歯周病を治療すると、糖尿病の悪化を防ぐことにも繋がります。

3.糖尿病とインプラント治療の関係

では、糖尿病とインプラント治療にはどのような関係があるのでしょうか。

3-1.糖尿病だとインプラント治療ができないケースも

インプラント治療を希望しても、糖尿病を持つ方は治療を断られることがあります。

それはインプラント治療が外科手術であるためです。

糖尿病による高血糖の状態は手術部位が感染症にかかりやすくなるリスク因子の1つ。

インプラント治療のリスクは感染症だけではありませんが、まだまだ難しい治療でもあるため、そのようなリスクを避けるために、糖尿病を持つ方はインプラント治療を断られるケースもあります。

3-2.糖尿病がもたらすインプラント治療のリスク

具体的に、糖尿病がもたらすインプラント治療のリスクについて見ていきましょう。

3-2-1.歯周病になりやすい

まず、インプラント治療をする際には、歯周病を先に治療し、インプラント治療に入るのが原則です。

歯周病は歯茎や歯槽骨に炎症が起きる病気です。

インプラントは顎の骨に人工歯根を埋め込む治療なので、その土台となる歯茎や歯槽骨に問題があると難しいからです。

 

糖尿病の方は、高血糖が影響し、口内が乾きやすく、歯周病菌などの細菌が繁殖し、歯周病が進行しやすい状態です。

重度の歯周病で歯槽骨の吸収が著しい方は、そもそもインプラント治療ができない可能性が高くなります。

 

治療前に歯周病は問題なく、インプラント治療を受けられたとしても、術後も注意が必要です。

糖尿病の方は高血糖の影響から、インプラント治療後に多いトラブルの1つ、「インプラント周囲炎」になるリスクが高まります。

インプラント周囲炎は、歯周病菌によりインプラントの周りに炎症を起こす病気です。

 

インプラント周囲炎が進行すると、せっかく埋めたインプラント体が抜け落ちてしまうことも。

これらのことから、歯周病になりやすい糖尿病の方は、やはりインプラント治療のリスクは大きいと言えるでしょう。

 

3-2-2.術後感染症のリスク

糖尿病の方は免疫力が低下している状態のため、術後に感染症にもかかりやすいというリスクもあります。

術後かかりやすい感染症もさまざまあるため、健康な人以上に注意が必要になってきます。

 

3-2-3.インプラントと骨の結合を妨げるリスク

また、高血糖のために血流が悪い状態であれば、インプラントと骨の結合するのを妨げてしまうこともあります。

 

3-2-4.傷の治りが遅い

インプラントを埋め込む手術をしたあとは、術跡が治ることも重要な点です。

その点、糖尿病の方はインスリンの産生量が不足しやすいため、傷の治癒に必要な栄養や酸素が不足し、治癒力が低下してしまうという問題が起こる可能性があります。

 

3-2-5.低血糖発作・高血糖発作が起こるリスク

インプラント治療中に眠気やだるさ、痙攣などの症状が見られたら、低血糖発作を起こしている可能性があります。

糖尿病なのに低血糖?と思われる方もいるかもしれませんが、糖尿病治療でインスリン注射や軽口血糖降下剤を服用し、血糖値をコントロールしている場合、歯科治療で歯の痛みや腫れのため、食べ物の摂取量が減ると、低血糖に陥る危険があります。

低血糖発作は極めて危険な発作です。

症状が見られたら、歯科医にすぐに知らせ、ジュース等の糖分摂取で症状を改善させるようにしましょう。

また、発作を予防するために、ご飯の時間の前の治療は避けるようにするといいでしょう。

 

高血糖発作は、血糖値のコントロールが不良の時に手術やストレスなどを受けることにより、昏睡状態に陥る症状です。

コントロールできていれば、手術を受けても大丈夫なので、手術前に血糖値を測定しておくことが予防になります。

3-3.血糖値のコントロールができれば治療も可能

このように糖尿病の方がインプラント治療を受ける際には、さまざまなリスクが生じます。

しかし、絶対にインプラント治療を受けられないわけではありません。

 

糖尿病でもインプラント治療を受けるためのカギは、「血糖値をコントロール」すること。

日常的に血糖値をコントロールして、口内環境を良好な状態で保てれば、インプラント治療を受けても問題ないケースがあります。

もちろん術後も血糖値をコントロールし、小まめなメンテナンスが必要になりますが、糖尿病=インプラント治療は受けられない、というわけではないのです。

 

基準としては、ヘモグロビンがブドウ糖と結合したHbA1cの値が7.0未満であることが、インプラント治療を受けられる目安となります。

ただし、空腹時に血糖値が180[mg/dl]以上の人は、治療を受けることができません。

4.糖尿病の人がインプラントを受ける場合

糖尿病の人がインプラントを受ける場合、どのような点に気をつけるといいでしょうか。

4-1.内科医と歯科医の連携が大切

まずは糖尿病のかかりつけ医である内科医と、インプラント治療を受ける予定の歯科医に連携してもらうことが大切です。

特に日常的に血糖降下剤を服用したり、インスリン注射を打ったりしている方は、必ず内科医にインプラントを受けることを相談しましょう。

患者の情報をお互いに共有し、治療を受けても大丈夫か判断したり、治療中の血糖値のコントロールが順調にできているか、術後の状況などの情報交換をしてもらったりします。

そうすることで、安心してインプラント治療に入ることができます。

4-2.血糖値のコントロールをすること

糖尿病の方がインプラント治療を受ける際には、血糖値のコントロールは不可欠です。

治療前治療後ともに、血糖値がコントロールできているか日常的に確認しましょう。

特に治療前には、必ず血糖値を測定し、血糖値が高い時には治療を行わないようにしてください。

4-3.感染症には要注意

治療後は感染症を予防するため、普段の生活や口腔ケアを丁寧に行いましょう。

インプラント治療したところに関し、何か心配事があったら、すぐにかかりつけの歯科医院で相談するといいでしょう。

5.糖尿病でもインプラントの治療は可能!事前準備やケアで納得のいく治療を

糖尿病の方は絶対にインプラントの治療ができないというわけではなく、血糖値のコントロールが不良の場合、受けられない可能性があるでしょう。

しかし、糖尿病であっても、インプラント治療を受けられるケースもあるので、最初から諦める必要はありません。

インプラントには他の治療にはないメリットもたくさんあります。

納得のいく歯科治療を受けるために、かかりつけの糖尿病内科医と相談しながら、ぜひ一度歯科医に相談してみてください。

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