妊娠中にインプラント治療を受けられますか?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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赤ちゃんが産まれ、育児で忙しくなる前である妊娠中、歯の治療を考える方は少なくありません。

実際、母体が安定していれば、歯周病の治療や虫歯治療は受けられます。

では、インプラント治療はどうでしょうか。

インプラント治療を受ける方は、何らかの理由により、歯を失ったケースであることがほとんど。

歯のない状態を早めに解消し、バタバタする育児が始まる前に見た目の改善も行いたいと考える方も多いかもしれません。

 

今回は、そんな妊娠中のインプラント治療は可能なのかどうかについて見ていきます。

目次

1.妊娠中にインプラント治療は可能?

インプラント治療を妊娠中に受けることができるかどうかですが、結論から言うと、妊娠中は控えた方がよいです。

多くの歯科医院で、妊娠中のインプラント治療は断られることがあります。

妊娠の可能性がある場合、妊娠を希望している場合も、インプラント治療の時期について、主治医とよく相談すべきでしょう。

1-1.妊娠中、インプラント治療は控えた方がいい理由

妊娠中に治療を控えた方がいい理由は、インプラント治療が外科治療を伴う治療であるからです。

妊娠中は歯周病や虫歯の治療は可能ではありますが、抜歯等を伴う治療はリスクが高いため、急を要さない限りはほとんど行われません。

 

妊娠は病気ではないと言われるものの、非妊娠時の状態とは異なります。

少しのことで体調を崩したり、トラブルが起きやすかったりする時期なので、外科手術を伴う歯科治療はリスクが大きいのです。

2.妊娠中にインプラント治療を受けるリスク

妊娠中にインプラント治療を受けるリスクは、具体的にどのようなものがあるのか見ていきましょう。

2-1.レントゲンなどによる放射線の影響が安全とは言えない

インプラント治療を受ける前には、レントゲンやCT検査を行います。

これらの検査は、インプラント治療を成功させるためのカギとなる検査で、治療を受ける上では欠かせない検査です。

しかし、レントゲンやCT検査には放射線が使われます。

妊娠中でも歯科レントゲン1回程度なら、問題がないことが多いですが、インプラント治療の場合は正確にインプラントの埋入位置を確認するため、複数回撮影します。

また、より詳細に検査するために使われる歯科用CTは、レントゲンより被ばく量が少し多いとされています。

 

妊娠中の女性のお腹を直接検査するわけではありませんが、胎児の放射線の感受性は大きいとされています。

何かしら影響が出ることのリスクを避けるためにも、複数回行わなければいけないレントゲン検査やCT検査は控えたいという医師も多いです。

2-2.妊娠中は治療体勢に負担を感じることがある

妊娠中は子宮が大きくなるなど、体型の変化が起こります。

そのため、仰向けに寝転んだ体勢での治療が辛く感じることがあります。

 

特にお腹が大きくなると、さまざまな臓器が圧迫されます。

長時間あおむけの状態では、腹部大動脈という重要な血管が圧迫され、気分が悪くなりやすいということがあります。

インプラント治療は長時間の手術、治療が予想されるため、特にしんどいと感じることがあるでしょう。

2-3.麻酔薬・術後の投薬が胎児に影響する可能性がある

インプラントの治療は、歯茎を開き、インプラントを埋入する穴を開ける外科手術が含まれます。

その手術の際には、麻酔薬を使用します。

また、手術が終わってからも、細菌感染を予防するために抗生物質が、痛みが出た場合は鎮痛剤が処方されます。

 

妊娠中の投薬は胎児に影響が出る可能性のものもあるため、確認が必要なことが多いです。

もちろん影響が出ないように薬の種類や量などは調整することもできますが、母体にも胎児にも100%安全とは言い切れません。

何かあってからでは遅いので、急を要さない限りは安全性を考慮し、小さなリスクでも避けるのが賢明と言えるでしょう。

2-4.出血が多いと早産のきっかけにも

外科手術では出血が伴いますが、手術の際に出血が多い場合、早産に繋がる危険があります。

非妊娠時では大したことはないと思う出血量でも、血液内に含まれるサイトカインという情報伝達成分の濃度が高くなり、子宮筋の収縮を促して早産を誘発すると考えられているからです。

2-5.治療中にストレスがかかる可能性がある

インプラント治療に限ったことではありませんが、歯科治療は何度か通院する必要があるため、つわり等で体調のすぐれない日もある妊娠中は通院にストレスを感じやすいかもしれません。

できる限り母体を労わり、ストレスを感じることなく出産の日を迎えることの方が妊娠中は大切。

そのため、無理に治療を妊娠中に受けなくてもよいと考える歯科医師が多いでしょう。

3.インプラント治療中に妊娠したら

妊娠中にインプラント治療を無理に始める必要はありませんが、もしインプラント治療中に妊娠が分かったらどうすればいいのでしょうか。

3-1.主治医にすぐに相談

まずはすぐに主治医に相談しましょう。

先述した通り、妊娠中のインプラント治療には、さまざまなリスクが生じます。

 

妊娠が分からない時期にすでに受けた治療は、あとでなしにすることはできません。

しかし、妊娠が分かった後には、そのリスクを避けることは可能です。

歯科医師とどうするのか相談しましょう。

どの段階まで治療が進んでいるかにもよりますが、最適な方法を医師のアドバイスを受けながら考えていきましょう。

3-2.応急処置が行われる場合も

インプラント治療中に妊娠したときには、その治療の進み具合によって、応急処置やほかの治療が行われる場合もあります。

あとは人工歯を入れるだけの場合などは、仮歯を入れて、出産後に人工歯を入れる治療をすることが多いでしょう。

 

まだインプラントの外科手術が終わっておらず、インプラント体を顎骨に埋め込んでいない段階で妊娠が分かった場合には、手術は行わず、入れ歯治療などに切り替えるケースもあります。

外科手術がおわっていないということは、歯がない状態ですよね。

歯がない状態、その空間が空いている状態になると、隣接する歯が空いているスペースに寄ってきたり、傾いてきたりすることがあります。

また、抜けた歯と向かい合っていた歯が、空いているスペースへ伸びてくることも。

歯がない状態を放置しておくと、歯並びや噛み合わせに影響が出ることがあるのです。

このように噛み合わせ等に影響が出ないよう、入れ歯治療に切り替え、応急処置としてスペースを開いたままにしないでおくのです。

 

そして出産後、落ち着いた時に入れ歯の代わりにインプラント治療を行います。

入れ歯を入れていた箇所は、また妊娠前とは違う状況になっているかもしれないので、また検査から始めます。

治療計画に狂いは出てしまいますが、妊娠中は母体と赤ちゃんの成長を優先し、リスクを避けて過ごしましょう。

3-3.妊活中にインプラント治療を行いたい時

妊活中にインプラント治療を考える方もいるかもしれません。

しかし、万が一治療中に妊娠したら、治療をストップしなければいけないこと、応急処置をとらなければいけないことを頭に入れておきましょう。

妊活も大切ですが、失った歯のスペースを埋めること、また歯の健康を守ることも人生において大切なことです。

インプラント治療を行っている間は、少し妊活をお休みし、インプラント治療に目途が付いたら妊活を再開するなど、ライフプランを見直してみましょう。

4.妊娠中は体を大切に!妊活中は時期を考慮した治療計画を

妊娠中はちょっとしたことで体調を崩しやすく、非妊娠時と比べて免疫力も落ちている時期です。

そのため、歯の治療ももちろん大切ですが、何よりお腹の胎児のこと、母体の健康を優先的にえましょう。

妊娠中は小まめな口腔ケアを大切にし、口内のトラブルを悪化させないことと、ストレスを感じず過ごすことが先決です。

 

そのため、急を要さない歯科治療は、出産して、赤ちゃんが預けられるとき、また少し落ち着いた頃に受けるといいでしょう。

特にインプラント治療は、非妊娠時でも体や精神的にも負担がある治療です。

途中までインプラント治療したのにもったいない、あとちょっとなのに…と感じる方がいるかもしれませんが、赤ちゃんとお母さんの体のことを考え、妊娠を隠すことなく、まずは歯科医師にそうだんしてください。

そして出産するまでは応急処置等で対処し、出産後に治療する方向で治療計画の立て直しをしましょう。

 

また、妊活中にインプラント治療をする際には、妊娠したら治療を中断しなければいけない可能性があることも考慮するといいですね。

妊娠中も安心して過ごせるよう、歯科医にも相談し、治療計画を立ててもらってください。

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