- この記事の監修者
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医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラントを長持ちさせるには、口の中の衛生状態を良好に保つことが大切です。歯科衛生士などによるクリーニングである「PMTC(ピーエムティーシー)」は、インプラント後のメンテナンスとして、注目されている処置です。
この記事では、PMTCの概要や処置の流れ、メリット・デメリットを解説します。インプラントの寿命を伸ばすために、ぜひ参考にしてください。
目次
- 1.PMTCとはどんな処置なのか
- 1-1.PMTCとは
- 1-2.PMTCとスケーリングの違い
- 2.PMTCの一般的な流れ
- 3.PMTCのメリットとは
- 3-1.インプラント周囲炎や虫歯を防げる
- 3-2.異変を早期発見できる
- 3-3.歯磨きが難しい人でも口の中を健康に保てる
- 3-4.歯質を改善できる
- 3-5.美しい歯を保てる
- 3-6.口臭を予防できる
- 4.PMTCのデメリットとは
- 4-1.歯の痛みを感じる場合がある
- 4-2.歯ぐきが傷つく場合がある
- 4-3.保険適用外のケースが多い
- 4-4.汚れが多いと長時間かかる
- 4-5.PMTCを行っていない歯科クリニックもある
- 5.PMTCはどのくらいの頻度で受ければいいの?
- 6.PMTCを受けてインプラントを長持ちさせよう!
1.PMTCとはどんな処置なのか
PMTCの概要やスケーリングとの違いについて解説します。
1-1.PMTCとは
PMTCは、「Professional Mechanical Tooth Cleaning(プロフェッショナル・メカニカル・ティース・クリーニング)の略語です。専門トレーニングを受けた歯科医師や歯科衛生士による歯のクリーニングを指します。
清掃効果が高い研磨剤や電動ブラシ、ラバーカップといった器具を使用して、1本ずつ丁寧にクリーニングするため、毎日のブラッシングでは取り除けない汚れも、きれいに落とせます。
口の中には、歯周病菌などの細菌や食べかすなどの汚れ、歯垢、歯石などさまざまな汚れや「バイオフィルム」が付着しています。
バイオフィルムとは、虫歯菌や歯周病菌などさまざまな細菌が集まり、膜のようになったものを指します。歯の表面に存在する「エナメル質」にこびりついており、通常の歯磨きだけでは完全には取り除けません。
PMTCによってバイオフィルムを取り除けば、細菌の増殖・毒素や酸の発生といった活動をおさえられ、虫歯や歯周病を予防できます。
また、歯と歯ぐきの溝である「歯周ポケット」や歯と歯の間の隙間、奥歯の後ろ側、歯並びが乱れている箇所など、自分ではきれいに掃除できない部分も、プロがしっかりとクリーニングしてくれるのも大きなメリットです。
セルフケアでは落ちない汚れを定期的に取り除くことで、インプラントが長持ちしやすくなります。
1-2.PMTCとスケーリングの違い
歯科クリニックでは、PMTC以外にも虫歯・歯周病予防の処置を受けられます。なかでも代表的な処置が、スケーリングです。ただし、PMTCの一環として、スケーリングを行うケースも少なくありません。
スケーリングとは、歯科衛生士などが「スケーラー」と呼ばれる器具を使い、歯の表面にできた歯石を取り除く処置です。スケーラーには、手動のものや超音波を利用したものがあり、歯の状態などによって使いわけます。
歯石は歯垢が時間の経過により硬くなったもので、歯磨きや歯のクリーニングでは、除去するのは困難です。
歯石がついたままだと細菌が口の中で増え、歯周病などさまざまなトラブルの原因になるため、スケーリングによって除去することで、口の中の健康を守れます。
2.PMTCの一般的な流れ
PMTCは、一般的に下記のような流れで行います。
(1)口の中のチェック
口の中の状態をチェックし、歯がどのくらい汚れているかなどを確認します。汚れを可視化するために、染出し液を使って歯垢をピンク色に着色し、状態によっては歯磨き指導をする場合もあります。
(2)スケーリング
歯石が溜まっている場合は、クリーニング前にスケーリングを行い、歯石を除去します。
(3)クリーニング
PMTC用のクリーニング剤や器具を使用し、丁寧に汚れを落としていきます。汚れの程度や歯の部位などに合わせ、クリーニング剤や器具を使い分けることで、セルフケアでは落とせない汚れも除去できます。
(4)フッ素塗布
歯の表面の汚れを除去後、虫歯予防のためにフッ素を塗ります。
3.PMTCのメリットとは
PMTCを受ける主なメリットを紹介します。
3-1.インプラント周囲炎や虫歯を防げる
PMTCを受ければ、バイオフィルムのような普段の歯磨きでは取り除けない汚れも徹底的に落とせます。その結果、細菌に感染するリスクが減り、「インプラント周囲炎」や歯周病、虫歯を予防できます。
インプラント周囲炎とは、歯周病菌に感染することにより、歯ぐきをはじめとするインプラント周辺の組織に炎症が起きる病気です。
歯周病とよく似た病気で、初期は歯ぐきの軽い腫れ・赤みが見られ、少しずつ悪化し出血・膿などが生じ、あごの骨が溶けていきます。重度になると、あごの骨の減少により支えきれなくなったインプラント体がグラグラするようになり、最終的には抜け落ちてしまいます。
インプラント周囲炎は、歯周病と比べて進行が非常に早く、インプラントが使えなくなる主な理由のひとつです。PMTCを受け、しっかり予防しましょう。
3-2.異変を早期発見できる
PMTCは歯科クリニックで行うクリーニングのため、定期的に受けることで、初期のインプラント周囲炎やインプラントの金具のゆるみといった自分でも気がつかない異変を早期発見できます。
また、歯や歯ぐきの違和感など気になる点があれば、処置の時に聞けるのもメリットです。
インプラント周囲炎をはじめ口の中の異常は、発見・治療が早いほど軽度で済みます。PMTCは、インプラントの寿命を伸ばし、治療の身体的・金銭的・時間的な負担を軽減する効果的な方法といえるでしょう。
3-3.歯磨きが難しい人でも口の中を健康に保てる
ブリッジや矯正器具などをつけていると、器具の周りに汚れがつきやすく、セルフケアではきれいに落とすのは困難です。そのため、口の中で菌が繁殖しやすくなり、インプラント周囲炎や虫歯のリスクが高まります。
また、手が不自由、高齢であるなどの理由で、ブラッシングが難しい人も、インプラント周囲炎や虫歯になりやすいといえます。
PMTCによってすみずみまで汚れを落とせば、インプラント周囲炎や虫歯を防げます。
3-4.歯質を改善できる
フッ素には、歯の再石灰化を促進する・虫歯菌が酸をつくり出すのを防ぐ・歯を酸に溶けにくい状態にするといった効果があります。
PMTCの際に、フッ素入りの研磨剤を使用したり、バイオフィルムの除去後にフッ素を歯の表面に塗ったりすることで、歯質を強化できます。虫歯になりにくくなり、歯を失うリスクを下げられます。
3-5.美しい歯を保てる
PMTCによって着色汚れが落ちるため、歯のくすみ解消に効果的です。
天然歯と変わらない見た目を回復できるのは、インプラントの大きなメリットです。PMTCによって白い歯を維持することで、インプラント後の美しい口元をさらに引き立てられます。
3-6.口臭を予防できる
口臭の原因は、飲食物・病気・口の中の細菌によって発生するガスです。口臭の約8割は、ガスが原因です。PMTCを受けることで、細菌の活動をおさえられ、口臭を軽減できます。
4.PMTCのデメリットとは
PMTCは、虫歯・歯周病・インプラント周囲炎を予防できるなど、メリットの大きい処置です。しかし、気をつけるべきデメリットもあります。
4-1.歯の痛みを感じる場合がある
PMTCは、あくまでも歯のクリーニングのため、痛みを感じることはあまりありません。しかし、歯周病などで炎症が起きている場合は、器具に触れることで痛みを感じたり、知覚過敏のような症状が出たりする場合もあります。
PMTCは、口の中にトラブルがない状態で受けるのが望ましいといえます。
4-2.歯ぐきが傷つく場合がある
PMTCは専用の器具を使って丁寧に行いますが、歯ぐきを傷つける可能性はゼロではありません。
歯ぐきが傷つくと、傷口から歯周病菌などが血管に侵入し「歯原性菌血症(しげんせいきんけつしょう)」になる可能性があります。歯原性菌血症は、動脈硬化・がん・アルツハイマー型認知症などさまざまな病気を誘発するリスクがあることが最近の研究で判明しました。
特に、重度の歯周病で歯ぐきに炎症がある場合は、発症リスクが高いので要注意です。なるべく早めに歯周病治療を受け、口の中の細菌を増やさないようにしましょう。
4-3.保険適用外のケースが多い
保険適用の基準は、必要最低限の診療であるかです。病気やケガを治すための治療は保険適用になりますが、見た目を美しく整えるための治療は保険適用になりません。
PMTCは見た目を美しく整える部分が大きいとされているため、ほとんどの場合、保険が適用されず全額自己負担となります。全額自己負担の場合は、1回あたりの費用の目安は5,000円以上です。
ただし、歯周病治療の一環としての処置と判断された場合などは、保険が適用されるケースもあります。まずは歯科クリニックで、費用の見積りをしてもらいましょう。
4-4.汚れが多いと長時間かかる
PMTCは、歯科衛生士や歯科医師が、歯を1本ずつ丁寧にクリーニングしていきます。処置にかかる時間は30~60分が目安ですが、汚れが多いと処置にさらに長時間かかります。
PMTCを受けている間はずっと口を開けているので、処置が長引くと疲れてしまうかもしれません。日ごろから歯磨きなどのケアを心がけ、汚れが少ない状態で、PMTCをしてもらいましょう。
4-5.PMTCを行っていない歯科クリニックもある
PMTCは、1本ずつクリーニングするため時間がかかるといった理由で、行っていない歯科クリニックもあります。事前に電話などで確認してから、歯科クリニックに行くようにしましょう。
5.PMTCはどのくらいの頻度で受ければいいの?
PMTCは、インプラント周囲炎の防止などさまざまな効果があります。費用がかかる・痛みを感じる場合があるなどのデメリットはありますが、インプラントを長持ちさせるために重要な処置なので、定期メンテナンスの一環として、受けるのをおすすめします。
口の中の状態などによって適した頻度は異なりますが、3ヶ月に1回くらいのペースで受けると、衛生的な状態を保ちやすいでしょう。
ただし、下記にあてはまる場合などリスクの高い人は、月1回ほどの頻度で受けることで、より効果的に口の中のトラブルを防げます。
・インプラント周囲炎・歯周病が進行している
・糖尿病などの持病により免疫力が低下していて細菌に感染しやすい
・手が動かしにくいなどの理由で歯磨きが充分にできない
・歯ぐきの再生療法を受けている
歯科医師と相談のうえ、通院ペースを決めましょう。
6.PMTCを受けてインプラントを長持ちさせよう!
PMTCとは、専門家である歯科医師や歯科衛生士が、専用の器具を使用して行う歯のクリーニングです。
歯垢・歯石・食べかす・バイオフィルムといった汚れを取り除くことにより、インプラント周囲炎や虫歯の予防などさまざまな効果が期待できます。
費用がかかる、限られた歯科クリニックでしか受けられないなどのデメリットはありますが、インプラントの寿命を延ばす効果的な方法のひとつです。
PMTCを実施している歯科クリニックでインプラントを受け、継続的にPMTCをしてもらうとスムーズです。PMTCを定期的に受け、インプラントを長く快適に使いましょう。