歯ぎしりでインプラントはダメになる?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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「歯ぎしりするからインプラントがダメになりそう」と不安に感じて、インプラントをためらっている方も多いのではないでしょうか。

 

確かに歯ぎしりはインプラントの寿命に関係しますが、対策をしっかりすれば、問題なく使い続けられるケースが多いといわれています。この記事では、歯ぎしりがインプラントに与える影響や対策などを解説します。

目次

1.歯ぎしりってそもそも何?どうして起きるの?

歯ぎしりとは、就寝時など無意識のうちに、歯をギリギリとすり合わせたり、強くかんだりする癖のことを指します。大人が通常時に噛む力は40~70㎏ほどといわれていますが、歯ぎしりでは約300㎏と何倍もの力が加わります。

 

そのため、被せ物・インプラント体・歯ぐき・あごの骨・あごの関節・筋肉などに過剰な負荷がかかり、悪影響を及ぼします。重度の歯ぎしりが原因で、インプラントがダメになってしまうケースも少なくありません。

 

歯ぎしりの原因はまだはっきりしていませんが、ストレスや噛み合わせが関係していると考えられます。

2.歯ぎしりでインプラントがダメになる?よくあるトラブル

歯ぎ しりが引き起こす、インプラントに関する代表的なトラブルを紹介します。

2-1.インプラントの脱落

歯ぎしりによって日常的にインプラントが揺らされることで、歯根の代わりに埋め込んだインプラント体とあごの骨との結合がゆるんでしまうケースがあります。

 

最初はインプラントがぐらぐら揺れる程度ですが、そのままの状態が続くと、抜け落ちてしまう可能性があるので、早めに対処しましょう。

2-2.被せ物の破損

インプラントの被せ物は、セラミックなどの耐久性の高い素材でできています。しかし、歯ぎしりをする癖があると、非常に大きな力が被せ物にかかり続け、すり減ったり割れてしまったりするケースがあります。

 

インプラント治療を受けてからすぐに、人工歯が欠ける・噛み合わせに違和感があるといったトラブルがある場合は、歯ぎしりが原因かもしれません。

2-3.アバットメントのゆるみ

「アバットメント」は、インプラント体と被せ物をつなぐ金属製の小さなパーツで、ネジのように締めて固定します。

 

歯ぎしりによってインプラントが何度も揺らされた結果、アバットメントのネジがゆるんで、被せ物がぐらついたり脱落したりしてしまう可能性があります。

2-4.インプラント周囲炎

「インプラント周囲炎」とは、歯ぐきなどの歯周組織が炎症を起こし、悪化すると歯肉やあごの骨を破壊する病気です。最悪の場合は、あごの骨でインプラント体を充分に支えられなくなり、インプラントの動揺や脱落を引き起こします。

 

歯周病とよく似た病気ですが、進行スピードが早く、自覚症状が出たときには、かなり悪化しているケースもあります。

 

インプラント周囲炎の原因は歯周病菌の歯ぐきへの感染で、歯ぎしりは直接の原因ではありません。しかし、歯ぎしりによってインプラントやあごの骨に強い負荷がかかり続けた結果、歯肉が炎症を起こし、インプラント周囲炎の引き金になる可能性があります。

2-5.あごの骨の吸収

歯は人間の身体のなかで一番硬く、あごの骨よりも硬い部位です。歯ぎしりによって歯が揺れると、周囲のあごの骨がダメージを受け、徐々に吸収されてしまいます。

 

若い患者の場合は、骨が丈夫で身体の抵抗力が強いため、あまり影響を受けません。しかし、30代以降はあごの骨が溶けるリスクが上がるので注意しましょう。

3.インプラントが歯ぎしりの影響を受けやすい理由

インプラントは歯ぎしりの影響を受けやすく、最悪の場合は抜け落ちて使えなくなってしまいます。

 

インプラントが歯ぎしりの影響を受けやすい理由は、「歯根膜(しこんまく)」がないからです。歯根膜とは、歯根と歯を支えるあごの骨の間にある薄い膜のことです。

 

歯根膜は、あごの骨にかかる噛む力を和らげるクッションのような役割を持つ部位です。歯根膜がある場合は、噛むときに歯が上下左右に少し動き力を均等に分散させ、コントロールしています。

 

インプラントをすることで、歯や歯根の機能は回復できますが、歯根膜の機能は補えません。そのため、噛む力がダイレクトにあご骨に伝わり、天然歯と比べて大きなダメージを受けてしまいます。

 

その結果、噛む力が過剰にかかることによる人工歯の破損やインプラント周囲炎など、さまざまなトラブルにつながります。

4.歯ぎしりはインプラント以外にも悪影響を及ぼす

歯ぎしりが悪影響を及ぼすのは、インプラントだけではありません。代表的なトラブルを紹介します。

4-1.顎関節症

「顎関節症(がくかんせつしょう)」とは、口を開けるとあごが痛い、口を大きく開けにくい・開けられない、あごを動かすとカクカクと音が鳴るといった症状が起きる病気です。

 

原因はさまざまですが、歯ぎしりをそのままにしておくとあごに過剰な負担がかかり、発症するリスクがあります。

 

自然に症状が改善する可能性もあるものの、痛みや口の動かしにくさが悪化することもあるので、早めに歯科クリニックや口腔外科に相談しましょう

4-2.知覚過敏

歯ぎしりによって天然歯がすり減ると、通常であれば「エナメル質」という部分に覆われている「象牙質」がむき出しになります。

 

象牙質は、痛みを神経に伝えやすい性質がある部位です。そのため、象牙質が露出すると、少しの刺激でも痛みやしみを感じる「知覚過敏」を引き起こすケースがあります。

 

歯ぎしりを放置すると、知覚過敏の症状が悪化し、痛みをおさえるために歯の神経を抜く治療が必要となるかもしれません。歯は神経を抜くと寿命が短くなり、歯の健康に大きな悪影響を及ぼします。

4-3.歯や歯根の破損

歯ぎしりによって歯に繰り返し過剰な力がかかると、歯や歯根が割れたり欠けたりすることが少なくありません。

 

歯根までひびが入り折れてしまうと、健康な歯だったのにもかかわらず抜歯せざるを得ないケースもあります。特に神経を抜いた歯は健康な歯と比べてもろく折れやすいので、歯ぎしりがある場合は注意しましょう。

4-4.歯並びの乱れ

歯ぎしりをすると、歯と歯が強くぶつかり揺れ動くため、少しずつ歯並びが変化します。歯並びが乱れると、噛む機能の低下や歯周病の重症化、虫歯のリスクの増大など、さまざまなデメリットが生じます。

 

また、インプラントを入れた時と歯並びが変わった場合は調整が必要です。

4-5.頭痛・肩こり・腰痛などの悪化

噛むときは、下あごとつながっている顔の筋肉が働きます。その筋肉は、さらに首・肩腰・背中など他の部位にもつながっており、歯ぎしりによって過剰な力が加わると、それぞれの部位に影響が及びます。

 

その結果、頭痛・肩こり・腰痛などが悪化し、慢性化しかねません。頭痛や首・肩・背中のハリを感じたら、歯ぎしりをしている可能性があります。

5.当てはまったら要注意!歯ぎしりをしているかセルフチェック

歯ぎしりは睡眠中などに無意識に行うものなので、自覚していない方も少なくありません。

 

下記の項目に1つでも当てはまる場合は、歯ぎしりなどの噛み癖があるかもしれないので、早めに歯科クリニックに相談しましょう。

 

【1】家族などから歯ぎしりをしていると言われたことがある

【2】被せ物・詰め物が外れたり欠けたりする

【3】仕事や勉強などで集中しているときに無意識に噛みしめている

【4】前から3番目の歯の上の面が平たくなっている

【5】歯にヒビができている、摩擦で欠けた歯がある

【6】朝起きると口周りやあごが重い・だるい・疲れた感じがする

【7】噛むと痛い

【8】冷たいものを口に入れるとしみた感じがする

【9】頬の内側や舌に噛んだ跡がある

【10】歯の根元が削れていたり欠けていたりする

6.歯ぎしりへの対処法

歯ぎしりをしている場合、放置すると治るどころかダメージが蓄積し、インプラントや天然歯にトラブルが起きてしまうかもしれません。早めに歯科クリニックに相談し、対策をすることが大切です。主な対処法を紹介します。

6-1.ナイトガードをつける

「ナイトガード」とは、マウスピースの一種です。就寝時に装着することで、歯ぎしりによるダメージを和らげ歯や歯ぐきを守る効果があります。

 

また、ナイトガードの調整により、ズレを調整し正常な噛み合わせに整えられるケースもあります。

 

歯ぎしり対策として効果的ですが、慣れるまで違和感がある、口の中が乾燥するといったデメリットもある対処法です。

 

また、ナイトガードは汚れたり経年劣化したりするため、メンテナンスが欠かせません。耐用年数が過ぎたら新しくつくり直す必要があります。

 

歯ぎしり対策のためにナイトガードをつくる場合は、健康保険適用となるケースが多く、3割負担の場合、8,000~9,000円ほどが目安です。

6-2.矯正治療を受ける

もともとの噛み合わせや歯並びが原因で歯ぎしりをしてしまう場合、矯正治療によって改善する可能性があります。

 

ナイトガードとは異なり、根本的に問題を解決できる対処法です。また、歯並びをきれいにできる、見た目を整える効果も期待できます。

 

ただし、矯正治療は自費診療のため、大人は80~100万円ほど、子どもは40万円ほど費用がかかります。さらに治療期間も長く、負担が大きい対処法といえるでしょう。

6-3.ボトックス注射を打つ

「ボトックス注射」とは、筋肉を弱める働きのある「ボツリヌス菌」の毒素から毒性を取り除いた成分を注射する治療のことです。

 

噛むときに使う筋肉の力を低下させることで、歯ぎしりでかかる力を軽減します。原因を直接解決できる反面、注入した部位に皮下出血や腫れが起きるなどのデメリットもあるので、よく検討しましょう。

 

自費診療で、エラ部分に注射する場合は1回あたり50,000円ほどかかります。

7.歯ぎしり対策をしてインプラントがダメになるのを防ぎましょう!

歯ぎしりとは、寝ている間などに上下の歯をすり合わせたり噛み合わせたりすることを指します。

 

歯ぎしりが強いと、被せ物・インプラント体・天然歯・歯ぐき・あごの骨などに過剰な負荷がかかり、インプラントの脱落や被せ物の破損などさまざまなトラブルにつながります。

 

代表的な歯ぎしり対策には、ナイトガードの装着・歯科矯正・ボトックス注射があります。

 

歯ぎしりを放置するとインプラントが使えなくなる可能性があるので、早めに歯科医師に相談し、対策しましょう。

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