- この記事の監修者
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医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラント治療を受けるにあたり、ISQ値という言葉を聞くことがあるかもしれません。
ISQ値とはImplant Stability Quotient(インプラント安定性指数)の略称です。
その名前の通り、インプラントの安定性を測定した値のこと。
インプラント体が顎骨にしっかりと安定することが、インプラント治療においてとても重要な点なので、このISQ値はインプラント治療に欠かせない測定の1つと言えます。
このISQ値は治療中、どの場面で測定するのでしょうか。
また、どのように測定するのか、インプラント治療におけるISQ値についてまとめました。
目次
- 1.インプラント治療において使用されるISQ
- 1-1. ISQ値の測定方法
- 1-2.振動周波数分析器の種類
- 1-3. ISQ値が低く出る要因
- 2.ISQ値の測定はいつ?
- 2-1.ISQ値はインプラント治療にどう影響する?
- 2-1-1.治療法に影響
- 2-1-2.治療方針に影響
- 3.振動周波数分析器でISQ値を測定するメリット
- 4.インプラント治療においてISQ値の測定は大切!安定性を測定しリスクの少ない治療を
1.インプラント治療において使用されるISQ値
ISQ値は、インプラント治療の中で、インプラントの安定性を測定する指標の1つです。
人工歯根となるインプラント体と、インプラント体周囲の骨組織との状況を測定します。
インプラントの治療計画を立てるのに役立ったり、安定性が足りなければ治療方針を見直したりするのに役立ちます。
この他、インプラントの安定性を測定する指標としては、レゾナンス周波数(RF)分析、ペドンタルシンモグラフィー(PSG)というものがあります。
レゾナンス周波数分析はインプラントと骨組織の剛性を比較し、ペドンタルシンモグラフィーはインプラントと骨組織の合成を測定して、インプラントの安定性を測ります。
一方、ISQ値はインプラントとその周辺の骨組織との接触状況を測定する方法です。
1-1. ISQ値の測定方法
ISQ値は「振動周波数分析器」という機器を用いて測定します。
まず、インプラント手術で埋め込んだインプラント体に専用のスマートペグを取り付けます。
その後、振動周波数分析器から、磁気パルスを発振し、スマートペグとの共振周波数でISQ値を測定します。
ISQ値はディスプレイ部分に表示されます。
通常、ISO値はどの方向から測っても同じであると考えられますが、インプラント周辺の色々な骨形態によってISQ値が異なる場合もあります。
そのため、近心、遠心、頰側、舌側の4方向からの測定が推奨されています。
1-2.振動周波数分析器の種類
振動周波数分析器は1種類だけでなく、さまざまなメーカーから発売されています。
具体的に次のような種類があります。
・オステルISQ・・・スウェーデンの会社が開発した機器で、精度が高い測定が可能です。
・スーパーソニック ゲージ・・・韓国の会社が開発したもので、スマートペグの形状に合わせてカスタマイズがされています。
・バイオセーフティ・・・アメリカのバイオセーフティ社が開発したもの。
・ペリオテストM・・・イタリアのビオホライズンインプラントシステム社が開発した機器です。
これらには測定精度に差があります。
また、これらのどれが使用されているかは、歯科医院や地域によっても異なります。
1-3. ISQ値が低く出る要因
ISQ値は高ければインプラント治療に影響は出ないのですが、低ければ治療に影響が出ます。
ISQ値が低く出る要因には次のようなものがあります。
・歯周病の場合
歯周病や歯肉炎で歯茎に炎症がある場合、インプラント周辺の組織が腫れて柔らかくなっていることがあるため、インプラント体の安定性は低くなります。
結果、ISQ値は低く測定されることがあるでしょう。
・取り付け方に問題がある場合
ISQ値の測定の際、インプラント体に専用のスマートペグを取り付けますが、その取り付ける位置や角度、インプラント体の位置などによって、ISQ値が正確に出ないことがあります。
精度を上げるには、正確な位置にスマートペグを取り付け、測定方法をしっかり把握して図らなければいけません。
2.ISQ値の測定はいつ?
インプラント治療中、ISQ値が使用されるのは、主にインプラント埋入のための外科手術後と、アバットメントや人工歯を取り付ける、また作製する前です。
インプラント体を埋め込んだ後、インプラント体が、人工歯を入れた時に十分負荷に耐えられるかについて調べます。
この測定は、歯科医師や歯科衛生士などの専門家が行います。
また、治療後に時間をおいてから、人工歯などの上部構造を作製する前に測定します。
数値を参考にインプラント体と顎骨が安定して結合していることを確認し、上部構造を作製するタイミングを決定します。
インプラントの安定性は、時間経過によって変化することがあります。
そのため、複数回にわたって測定し、測定結果の移り変わりを見ることも、治療計画を立てるにあたって大切な要素となるでしょう。
そのほか、インプラント治療後のメンテナンス中にも定期的にISQ値を測定することがあります。
インプラント周囲に不具合を感じた時にISQ値を測ることで、トラブルを未然に防いだり、最小限にとどめたりできる場合があるからです。
2-1.ISQ値はインプラント治療にどう影響する?
ISQ値の0〜100までの数値で表されます。
100に近い方がよりインプラントが安定しているというものです。
60以下だと少し安定性に心配があり、インプラント治療をそのまま進めるのには、多少リスクがあると言われています。
60〜70だと中等程度の安定性、70以上が安定性は高いという目安です。
このISQ値の結果によって、インプラントの治療法や治療方針が変わることがあります。
2-1-1.治療法に影響
インプラント治療には、大きく分けて2つの治療法があります。
1回法と2回法です。
1回、2回という数字は、外科手術が必要な回数に関係しています。
外科手術を1回だけ行い、インプラント体を顎骨に埋め込むオペが終わった後、インプラント体と人工歯をつなぐアバットメントをすぐに取り付けるのが1回法です。
2回法の場合は、オペを終えた後、インプラント体と顎骨が結合するまで経過観察をした後、再度歯茎を切開する外科手術を行い、アバットメントを取り付けます。
1回法の方が外科手術の回数が少ない分、患者の体への負担も少ないというメリットがあるのですが、ISQ値が低いとインプラント体の安定性が低いということなので、1回法の適用が難しいと判断されることがあります。
目安としては、1回法を行うには、70以上のISQ値が必要です。
70より低い場合には、2回法が選択されることがほとんどでしょう。
また、即時荷重インプラントといって、一定の条件をクリアできればインプラント体を埋め込んだ後にアバットメントと仮歯を装着することができる治療法もあります。
この即時荷重インプラントも、歯槽骨が十分にあり、骨密度も十分でインプラント体を安定させることができることが必須の条件とされているため、この場合も70以上のISQ値が必要と言えます。
2-1-2.治療方針に影響
ISQ値に問題がない場合には、そのまま治療が続けられますが、低い場合にはインプラント治療の失敗のサインだと考え、治療途中でも治療方針を見直す必要があります。
治療期間を延長して、十分な時間をかけてインプラント体と顎骨の結合を促進するか、インプラント体の再手術を行うなどの見直しが行われます。
3.振動周波数分析器でISQ値を測定するメリット
これまではインプラント体を顎骨に埋め込んだ後、インプラントと顎骨の結合状態は、インプラントの外科手術時の骨をけずる際の硬さの感覚、そしてどれくらい待った方がいいのかという、医師のこれまでの経験に頼ることがほとんどでした。
そのため、インプラント治療は経験豊富な歯科医師にしかできない治療というイメージも大きかったのです。
また、患者それぞれの口腔内の状態は異なるため、どれだけ経験が豊富でも、判断が難しいケースもあるでしょう。
しかし、埋め込んだインプラント体の安定性を数値で見られると、その結果に基づきながら治療計画を立てることができます。
安定性に不安があれば対策を考えたり、治療方針を変えたりできることは、治療に大きなメリットをもたらします。
感覚や経験だけに頼らない、客観的な評価をもとに、その後の治療計画が立てられるからです。
そのほか、非接触で測定が可能なため、直接インプラント体やアバットメントに器具を接触させずに測定が可能です。
余分な衝撃を与えずに測定できるので、術後の状態へも負担がほとんどありません。
4.インプラント治療においてISQ値の測定は大切!安定性を測定しリスクの少ない治療を
インプラント治療を受けるにあたり、少しでもリスクを減らし、より良い治療結果を望むのは当たり前のこと。
ISQ値を測定することで、どのような治療が良いのかを数値で判断することができます。
インプラント治療のリスクを少しでも減らしたいのであれば、ISO値の測定など、さまざまな検査結果から客観的に治療計画を考えてくれる歯科医師の元で受けるのもいいでしょう。
インプラントが安定し、より長くインプラント治療のメリットを感じられるよう、感覚や経験だけでなく、さまざまな検査・数値面からも安心できる治療計画を立ててくれる、歯科医師を選べるといいですね。