インプラントの「失敗事例」を知りたい!失敗した理由も!

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

「見た目がキレイ」「自分の歯と同じように噛める」と定評のあるインプラント。一方で外科手術をともなうインプラント治療では、治療中や治療後に思わぬトラブルに見舞われることも少なくありません。独立行政法人『国民生活センター』の報道発表でも、「インプラント治療で危害を生じた」という相談件数が2013年度以降の5年間で409件、以後も毎年60~80件ほど寄せられていると報告されています。

 

そこで今回は同資料にも記載されている過去の実例を参考に、インプラント治療で起こりえるトラブルや失敗事例について、その原因や注意点などをご紹介していきます。

目次

1. 実際あったインプラント失敗事例とその原因

1-1. 治療による不快症状(炎症・痛み・腫れ)が治らない

インプラント手術後はしばらく患部に痛みや腫れをともないますが、正常であればその症状も1週間から10日ほどで落ちつきます。しかしその痛みや腫れが1ヶ月以上続く、あるいは「半年たっても治まらず精神的にも参ってしまった」という事例がいくつか報告されています。

 

その原因としては術中・術後における感染予防の不備、または不適切な手術(正しい位置にインプラントが埋入されていない)などが考えられます。

1-2. インプラント手術中・手術後の出血が止まらない

インプラント手術では術後に出血が止まらず救急搬送に至ったケースや、過去には手術中の大量出血による死亡事故も発生しています。

 

術中・術後の出血に関するトラブルはとくに下顎の治療で発生しやすく、ドリルで削る際に誤って大きな血管を傷つけてしまったことが主な原因です。これは治療前に「必要な検査を十分におこなっていない」「血管や神経の解剖学的位置を正しく把握していない」など、事前診断の不手際がその要因とっています。

1-3. インプラントがぐらつく・脱落した

インプラント治療後のトラブルとして「インプラントの埋め込みが浅く、やり直した」「数年後にインプラントが抜けた」といった事例が複数報告されています。

 

“インプラントの10年生存率は90%”といわれる一方で、このような事例が生じてしまうのは1つに歯科医師の技術不足があげられます。またインプラント治療を始める前の前処置(クリーニング・歯周病治療など)を怠ったなども、術後感染(インプラント周囲炎)による早期脱落の原因になっています。

1-4. インプラント手術直後から下唇にしびれや麻痺を生じた

下顎のインプラント治療では、術後に唇やあご、歯ぐきにしびれや麻痺が生じたというケースも少なくありません。これは下顎の骨の中にある『下歯槽神経(かしそうしんけい)』と神経を、インプラント手術の際に誤って傷つけてしまったことがその原因です。

 

大量出血のケースと同様、治療前に十分な診査・診断を怠った場合に起こりすい事例ですが、一方でこれらを適正におこなった場合でも、まれにしびれや麻痺を生じることがあります。ただこのような症状は早期に適切な処置をおこなうことで改善されるものが多く、歯科医の対応の遅れや不適切な処置がトラブルを長引かせる要因となっています

1-5. インプラントで蓄膿(ちくのう:鼻の症状)を起こした

インプラント手術後に鼻の横当たりが痛い・腫れる、あるいは鼻から膿が出る(蓄膿を生じた)といったケースは、上の奥歯のインプラント治療で起こりやすいトラブルの1つです。実際に他の医療機関で検査した結果、鼻の両側にある『上顎洞(じょうがくどう)』いう空洞にインプラントが貫通、もしくは脱落していたという事例がいくつか報告されています。

 

これらは術前の診査や診断が不十分だったことのほか、上顎洞に対する処置(※ソケットリフト・サイナスリフト)が適切におこなわれなかったことなどがその要因と考えられます。

 

※ソケットリフト・サイナスリフト

上顎洞によって骨の厚みが不足している場合に、その部位に人工骨などを補てんして厚みを確保するインプラントの補助手術のこと

 

2. インプラントの失敗事例からわかる医院側の問題点

2-1. 適正な診査・診断がおこなわれていない

インプラント手術では事前にインプラントを埋入する部位の骨の厚みや高さ、さらに神経や血管などの組織の位置を正確に把握しておく必要があります。そのうえで重要となるのが歯科用CTによる画像診断です。お口の中を平面でしからとらえられないレントゲンとは異なり、組織をあらゆる角度から把握できる歯科用CTは、いまやインプラント治療において必須の検査となっています。

 

またインプラント治療ではお口の状態だけでなく、患者さんの年齢、持病・投薬の有無など全身状態をしっかり把握しておくことも重要です。失敗事例のうちとくに重篤なケース(大量出血・麻痺やしびれなど)では、このような診査・診断が不適切で、なかば“見切り発車”で進められているケースに多くみられます

2-2. 治療のプランニング(計画)に不備がある

インプラント治療を正確かつ安全に進めるうえで重要なのが、事前の綿密なプランニング(治療計画)です。どの部位に何本埋入するのか、その位置や向きはどうするのかなど、通常のインプラント治療ではあらかじめ詳細な治療計画を立案していきます。さらにその内容は患者さんにも正確に伝え、情報を共有しておかなければなりません。

 

このようなプランニングが不十分なまま安易におこなうインプラント手術は、さまざまな術後トラブルを引き起こす大きな要因の1つとなっています

2-3. 歯科医師の知識や技術が不足している

インプラント治療は通常の歯科治療よりもさらに専門的な知識や技術を要します。近年は大学でもそのようなカリキュラムが組まれつつある一方で、いまだ歯科医の多くは卒業後に講習や研修を経てそのスキルを身につけているのが実状です。また日々進化しつづけるインプラント治療において、歯科医には常に最新の情報や技術を取り入れる姿勢が求められます。

 

過去の失敗事例をみると、その多くで担当した歯科医のインプラントに関する知識や技量の未熟さがうかがえます。治療に際しては、その歯科医のこれまでの治療実績、研修・講習の参加の有無、所属する学会などをわかる範囲で調べておくことも大切です

 

2-4. 医療設備・衛生管理が不十分である

先に挙げた歯科用CTなど、インプラント治療を安全に進めるうえではそれに必要な機材、設備が整っていることが絶対条件です。とくにインプラント手術においては術後の細菌感染が治療の成否を左右するといっても過言ではなく、ずさんな衛生管理は術後の腫れや痛み、インプラントの早期脱落などの失敗事例の大きな要因になっています

2-5. トラブル発生時の対応が不適切である

どんな手術でも100%安全なものはなく、適正におこなわれた手術においても不慮のトラブルは避けられません。肝心なのは手術中・手術後におこりえるリスクをあらかじめ予測し、さらにトラブルが起こった際の処置についても事前の治療計画にしっかり盛り込んでおくことです

 

失敗事例の中には実際に患者さんがトラブルを訴えても、ただ投薬を続けるのみであったり、「様子をみましょう」の一言で片づけているケースも多くみられます。また「手術のリスクを何も知らされていないまま治療が進められた」というケースも少なくありません。このように医療側のトラブルに対する考え方、対処の仕方なども失敗事例を生み出す要因になっています

3. 失敗しないために患者側が注意するべきこと

3-1. 治療をはじめる前に、しっかりと情報収集をおこなう

インターネットなどでさまざまな情報が手に入れられる近年は、治療のすべてを歯科医にゆだねるのではなく、自身も積極的に治療に参加する姿勢が大切です。専門家同等の知識を得る必要はありませんが、せめてインプラントの基礎知識(構造・治療法など)は治療前に確認しておきましょう

 

また治療を受ける歯科医院についても、医療設備や衛生管理、歯科医の経歴などをホームページなどで事前に調べておくことが重要です。もし可能であれば、わからないことや知りたいことを歯科医院に直接問い合わせてみましょう。その際に医院側がどのように対応したかという点も、信頼できる医院であるかどうかを知る情報の1つになります。

3-2.『聞こえのよい言葉』に惑わされない

インプラントは治療に時間がかかることや費用が高額であることが、患者さん側にはデメリットに思えます。そのため「治療期間が短縮できる」「今ならキャンペーンで費用がお得」といった文句につい心が動いてしまいがちです。

 

また外科手術をともなうインプラント治療には、必ず何らかのリスクがともなうことも知っておかなければなりません。そのようなリスクについて何の説明もなく「見た目がきれいになる」「よく噛める」「安全だ」とインプラントの利点だけを挙げる医院には警戒が必要です。聞こえのよい言葉に惑わされず、デメリットを含めた正しい知識や情報に耳を傾けるよう心がけましょう。

3-3. 重要な内容は口頭でなく、書面にしてもらう

歯科医から口頭でさまざまな説明を受け、その場では理解したつもりでも、時間が経つにつれその内容も次第にあやふやになってしまいます。また自分が聞いていないことでも歯科医から「それは説明した」と言われてしまえば、それ以上なすすべがありません。このような行き違いを防ぐためにも、治療に関する重要な内容については、必ず書面にて提示してもらうようにしましょう

3-4.もしもの場合は、他の医療機関への相談も検討する

治療を進める中で医療側の対応に不安になったり、治療に納得がいかなかったりした場合は、思い切って他の医療機関に相談することも大切です。またインプラントのトラブルの中には、迅速な対応によって実害をまぬがれるケースも多くあります。トラブルに対して治療を受けた歯科医院が適切に対処してくれない場合は、早い段階で大学歯学部の付属病院や口腔外科専門医院を受診しましょう

 

 

4.まとめ

インプラントは入れ歯やブリッジよりも見た目や噛み心地に優れ、実際に治療を受けた人の満足度も高い治療法です。外科手術に不安を感じる人も多いでしょうが、近年は歯科用CTやそれを活用したコンピュータシミュレーションなどによって、治療の確実性や安全性も向上しています。

 

一方でインプラントの需要が増加するにつれ、確かな知識や技術、設備がともなわないまま安易にインプラント治療をおこなう歯科医院も増えています。思わぬトラブルに見舞われぬよう、治療を受ける側も歯科医院選びは慎重におこない、また正しい情報や知識を身につけるよう心がけましょう。

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