- この記事の監修者
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医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラント治療では、「頭出し」と呼ばれる処置をする場合があります。インプラント治療の方法を選択するうえで、頭出しの有無は重要なポイントです。
この記事では、インプラントの頭出しの概要や頭出しをする場合の治療の流れ、メリット・デメリットなどを解説します。初めて「頭出し」という単語を知った方でも理解しやすいよう説明していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
- 1.インプラントの「頭出し」って何?
- 2.2回法の流れを紹介
- 3.2回法のメリット
- 3-1.適用範囲が広い
- 3-2.感染リスクが低い
- 4.2回法のデメリット
- 4-1.身体の負担が大きい
- 4-2.治療期間が長い
- 4-3.費用面の負担が大きい
- 5.2次手術後の注意点
- 5-1.手術した場所を触らない
- 5-2.食べ物による刺激に注意する
- 5-3.手術当日は湯船に入らない
- 5-4.手術後1週間は激しい運動を避ける
- 5-5.異常が出たらすぐに診察を受ける
- 6.2回法はメリットも多い!歯科医師と相談しましょう
1.インプラントの「頭出し」って何?
インプラントの手術方法には、「1回法」と「2回法」があります。インプラントの頭出しは、2回法で行われる処置です。
一般的なインプラント治療では、あごの骨に歯根の代わりに歯を支える「インプラント体」を埋め込み、インプラントとかぶせものを連結するための「アバットメント」を装着し、かぶせものである「人工歯」を固定します。
1回法では、外科手術は1回のみです。インプラント体をあごの骨に埋め込む際に、歯ぐきの外にアバットメントを出しておきます。その後、あごの骨とインプラント体が充分に結合したのを確認してから、人工歯を製作し、完成後にアバットメントに取りつけます。
2回法は、「1次手術」と「2次手術」、計2回手術する治療法です。1次手術でインプラント体をあごに埋め込み、アバットメントを取りつけずに歯ぐきを縫合し、3~6ヶ月ほど待機します。2次手術では、歯ぐきを切開し、インプラント体の頭の部分を露出させ、アバットメントを装着します。
このインプラント体の頭の部分を露出させる処置を、インプラントの頭出しといいます。
2.2回法の流れを紹介
2回法の一般的な流れを紹介します。
(1)診察・検査をする
歯科医師による診察を行い、歯の悩みや希望を伝えます。レントゲンやCTなどで口の中の状態を検査し、結果に基づいて歯科医師が治療プランを提案します。使用するインプラントの種類や、手術方法、メリット・デメリットなどを患者に伝え、治療プランを決定します。
(2)歯ぐきを切開する
手術プランに沿って、1次手術をします。最初に、痛みを感じないよう局所麻酔を打ちます。インプラント手術では基本的に全身麻酔はしません。インプラント体を埋め込む場所の歯ぐきを切り開き、あごの骨を露出させます。
(3)インプラント体を埋め込む穴を開ける
歯科用のドリルを使って、あらかじめ決めた深さまであごの骨に穴を開けます。穴の状態を確かめながら、インプラント体に合わせた太さまで穴を拡大していきます。
(4)インプラント体を埋め込む
専用の器具を使い、あらかじめ減菌したインプラント体をあごの骨に開けた穴に埋め込みます。インプラント体に「カバースクリュー」と呼ばれるネジを装着し、インプラント体の穴にふたをします。切開した歯ぐきを縫い合わせたら、1次手術は完了です。
(5)インプラント体とあごの骨の結合を待つ
埋め込んだインプラント体とあごの骨がしっかり結合するまで、3~6ヶ月ほど待ちます。口の中で細菌が増殖しないよう、歯科クリニックに通い消毒などのメンテナンスを受けます。
(6)インプラントの頭出しをする
インプラント体とあご骨が完全に結合したのを確認したら、2次手術をします。2次手術は、およそ5~10分程度と短時間で終わる手術です。
インプラント体を埋め込んだ場所の歯ぐきに局所麻酔を打ち、麻酔が効いたら歯ぐきを小さく切り開き、インプラント上部を露出します。
ただし、歯ぐきを切開しても、インプラント体が見えない場合が少なくありません。骨の結合を待つ間に1次手術で削ったあごの骨が再生して、インプラント体を覆ってしまうことがあるからです。その場合は、不要なあごの骨を取り除きます。
インプラント体の上部が露出したら、カバースクリューを取り外し、アバットメントを取りつけます。インプラント体の結合状態を確認し、歯ぐきを縫合して終了です。
(7)人工歯の製作
2次手術の傷口が治ったら、型を取って人工歯を製作します。製作期間の目安は、1週間~10日です。
(8)人工歯の装着
完成した人工歯をアバットメントとつなげたら、インプラント治療は完了です。
3.2回法のメリット
1度の手術でインプラントを入れることの可能な1回法があるため、「2回法は不要では?」と思うかもしれません。しかし、2回法には1回法にはないメリットがあります。
3-1.適用範囲が広い
歯ぐきがやせている、あごの骨の骨量が少ないなど、通常ではインプラントが難しい症例でも、2回法であれば適用できるケースが多数あります。
例えば、再生療法などで骨や歯ぐきの量を増やす、前歯などの治療で見た目の美しさを重要であるといった場合は、2回法の方が成功しやすいでしょう。
3-2.感染リスクが低い
2回法では、インプラント体を埋め込む1次手術時に切開した場所を完全に塞ぎます。しかし1回法の場合は、アバットメントを歯ぐきの外に出したまま、インプラント体とあごの骨が結合するまでの数ヶ月を過ごさなければいけません。そのため、2回法は1回法と比べてインプラント埋め込み後の感染リスクをおさえられます。
手術箇所が感染により炎症を起こすと、痛み・腫れ・膿などの症状が出ます。場合によっては、インプラント体とあごの骨の結合が進まず、インプラントを除去して再治療が必要となります。
感染リスクを軽減できるのは、2回法の大きなメリットです。特に歯周病によって天然歯を失った場合は、口の中に歯周病菌が多く存在するため、2回法が適しているケースが多いでしょう。
また、糖尿病などの全身疾患により免疫力が低下している場合も、感染リスクを回避するため、多くの場合2回法で行います。
4.2回法のデメリット
2 回法は、手術回数が多いため、下記のようなデメリットがあります。
4-1.身体の負担が大きい
2回法では、2回にわたり歯ぐきを切開して手術しなければいけません。手術の回数が増える分、患者の肉体的・精神的な負担は大きくなります。そのため、高齢などが原因で体力がない患者の場合は、2回法での対応が難しいケースもあります。
4-2.治療期間が長い
1回法での治療期間に加え、2次手術と回復させる期間が必要です。そのため、1回法よりも通院回数が多くなり、トータルの治療期間も長くなります。すぐに、インプラント治療を完了させ、噛む機能や見た目を回復したいという場合は、1回法の方が適しているでしょう。
4-3.費用面の負担が大きい
2回法は、1回法と比べて手術回数・通院回数が多いため、その分トータルの治療費が高くなる傾向にあります。また、遠方の歯科クリニックに通う場合は、交通費の負担も大きくなるでしょう。
5.2次手術後の注意点
2回法 における2次手術は、手術時間が短く、1次手術と比べると患者の身体的な負担は少ないといわれています。
しかし、身体へのダメージが少ないとはいえ外科手術なので、手術後の注意点を守らないと、傷の悪化や細菌感染といったトラブルを引き起こしかねません。2次手術後に注意すべき点を紹介します。
5-1.手術した場所を触らない
手術後は、治療箇所が気になり舌や指で触って様子を確かめたくなるかもしれません。しかし、傷口に触ってしまうと雑菌が侵入して感染リスクが高まります。手術した場所の状態が気になる場合は、鏡を使うなど傷口に触れない方法で確認しましょう。
5-2.食べ物による刺激に注意する
手術後の口の中はデリケートな状態なので、飲食物にも注意が必要です。
手術直後の数時間は、麻酔が残っているケースが少なくありません。麻酔の作用により感覚が鈍っているため、熱いものを口にした時に熱さを充分に察知できず、やけどをしてしまうリスクがあります。麻酔が切れるまでしばらくの間は、常温の飲食物をとる方が無難です。
さらに、インプラント手術後数日は、手術箇所に刺激を与えないように、香辛料の入った食べ物・酸味のある食べ物・硬い食べ物・甘い物・熱すぎる物・アルコールは、避けるとよいでしょう。
手術後3日〜7日間ほどは、よく煮込んだうどんやおかゆ、スープ、ヨーグルト、ゼリーといった、あまり噛まずに食べられる柔らかいものを中心とした食事が望ましいです。
5-3.手術当日は湯船に入らない
血行が促進されると血管が広がって、手術による炎症が重くなり、腫れ・痛み・出血の原因となります。手術当日は、湯船には浸からずシャワーだけで済ませるのをおすすめします。サウナも血行を促進するため、当日は避けましょう。
5-4.手術後1週間は激しい運動を避ける
手術から1週間程度は、汗が出るような激しい運動は控えた方が無難です。血行が促進され炎症の悪化や出血の原因となります。安静に過ごして、傷口の回復を待ちましょう。
5-5.異常が出たらすぐに診察を受ける
歯ぐきを切開するなどの外科処置をするため、2回目の手術後はある程度の腫れや痛みが出ます。しかし、激しい腫れや痛みが出た場合は、細菌感染など手術箇所になんらかの異常が出ているかもしれません。すぐに歯科医師の診察を受け、早めに対処してもらいましょう。
6.2回法はメリットも多い!歯科医師と相談しましょう
2回法では、インプラント体を埋め込む1次手術とインプラント体にアバットメントを取りつける2次手術、計2回の手術が必要です。
インプラントの頭出しとは、2次手術でインプラント体を埋め込んだ場所の歯ぐきを切り開き、インプラント体の頭を露出させ、アバットメントを装着する処置を指します。
2回法の主なメリットは、あごの骨量が少ないなどの難しい症例にも対応しやすい、感染症のリスクが低いの2つです。デメリットとしては、患者の身体的な負担が大きい、治療期間が長い、費用負担が大きいという点があげられます。
2回法は手術回数が増えるものの、1回法にはない長所もあります。歯科医師と相談し、適切な治療法を選びましょう。