「金属アレルギー」でもインプラントは可能ですか?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

インプラントは、金属を使用したインプラント体をあごの骨に埋め込んで歯根の代わりにする治療法です。そのため「金属アレルギーだからインプラントができない」と思っている方も多いのではないでしょうか。

 

この記事では、インプラントが原因で起こる金属アレルギーについて、メカニズム・発生する可能性・治療法・予防法など詳しく解説します。金属アレルギーへの不安からインプラントを諦める前に、ぜひチェックしてください。

目次

1.金属アレルギーとはそもそもどんなもの?

金属アレルギーは、人間の身体に備わっている免疫機能が、特定の金属を有害なものとして認識し攻撃することで起きる症状です。特に、ニッケル・コバルト・水銀は、アレルギー症状をおこしやすいといわれています。

 

口の中は、金属が常にだ液に触れている、歯垢から出る酸により金属が溶ける可能性がある、噛むことで金属がすり減るなど、金属アレルギーが起きやすい環境なので要注意です。

 

金属アレルギーは大きく「接触性皮膚炎」と「全身型金属アレルギー」にわかれます。

1-1.接触性皮膚炎

金属が汗やだ液をはじめとする体液に触れると、少しずつ成分が溶けだします。金属が溶けるとイオン化して身体のなかに入り、タンパク質と反応して、アレルギーの原因である「アレルゲン」に変化します。

 

免疫機能がアレルゲンを敵と認識し、身体の中に侵入してきた時にすぐに攻撃できるよう「抗体」をつくります。次にアレルゲンが身体の中に入ってきたときに抗体が過剰に反応し、皮膚や粘膜を破壊してしまい、かゆみなどのアレルギー反応が発生するという仕組みです。

 

歯科治療に伴う金属アレルギーでは、金属製の人工歯などの部品が歯ぐきや口の中の粘膜に触れて、接触性皮膚炎を起こし、赤い発疹・かゆみ・水ぶくれなどが発生する場合があります。

1-2.全身型金属アレルギー

歯科治療で使用する金属や食べ物のなかに含まれる金属が原因で起こるアレルギーのことです。歯科治療に使用する素材には、パラジウム・錫(すず)・金を含むものもあり、少しずつ成分が溶け出て身体に吸収され、長い時間をかけてアレルギーを引き起こします。

 

全身型金属アレルギーが発症すると、全身のさまざまな部位に発疹やかゆみなどの症状があらわれます。全身型アレルギーの主な症状は、下記の通りです。

 

・全身の湿疹

金属アレルギーの初期症状は、皮膚の湿疹です。口の中や周辺だけではなく、手足・腹・背中などにも湿疹ができる場合があるため、インプラントが原因だと気づかない場合があります。

 

・口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん)

「口腔扁平苔癬」は、唇・舌・歯ぐき・頬の内側などの粘膜に、白っぽいレース状の歯の盛り上がりができる症状です。

 

・掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)

皮膚に小さな水ぶくれができ、少しずつ中に粘り気のある膿がたまっていく病気です。手のひらや足の裏で出る場合が多く、かゆみを伴います。

 

その他、口内炎や舌の炎症、味覚異常などさまざまな症状があらわれる可能性があります。

2.金属アレルギーでもほとんどの場合インプラントを入れられる

金属アレルギーでもインプラントを入れられるかは、どの金属に対するアレルギーがあるかによって異なります。

 

歯根の代わりとしてあごの骨に埋め込む「インプラント体」は、主に「チタン」と呼ばれる金属でできています。チタンは、イオン化が起きにくく人間の身体と馴染みやすいため、アレルギーが発生する可能性が低いといわれています。

 

まれにチタンアレルギーの人もいるので、100%ではないものの、ほとんどの場合は、金属アレルギーがあったとしても問題ありません。

 

もし、チタンアレルギーがある場合は、金属を一切使わない「ジルコニアインプラント」を使用します。ジルコニアとは、セラミックの一種で非常に硬く、見た目が美しい素材です。

 

ただし、チタン製のインプラントと比べて費用が高い、硬すぎるためあごの骨やかみ合う歯に負荷がかかる場合があるなどデメリットも存在します。

 

このように、金属アレルギーが原因で、インプラント治療が受けられない可能性は低いといえるでしょう。インプラント後に金属アレルギーを起こす場合もありますが、まれなケースなので、あまり心配はいりません。

3.インプラント治療後に金属アレルギーが起きた場合の対処法

金属アレルギーが起きた場合は、必ず皮膚科医など医師の診断を受けましょう。症状や原因となる金属によって治療法は異なりますが、主な対処法は下記の通りです。

3-1.パッチテストを受ける

「パッチテスト」とは、アレルギーの原因となる物質を特定するための検査です。アレルギーの原因と疑われる物質からつくった試料を塗ったパッチテスト用のシートを背中の上側などに貼り、48時間後に剥がします。30分~1時間ほど待ってから、肌の状態などをもとにアレルギーがあるかを判定します。

 

パッチテストを行うことで、アレルギーの原因である金属を突き止められ、適切な治療ができるようになります。

3-2.原因となる金属を取り除く

パッチテストによって金属アレルギーの原因が判明したら、その金属を取り除きます。アレルギーを持っていない金属でできた部品と交換することで、症状はおさまるはずです。場合によっては、入れ歯などインプラント以外の治療を選択することもあります。

3-3.症状を治療する

皮膚や粘膜を保護しアレルギー疾患を改善する働きのある「ビタミンA」を配合した内服薬を飲む、炎症を鎮める作用や免疫をおさえる作用のある「ステロイド」軟膏を塗るといった治療を行います。

 

また、サイズが小さい口腔扁平苔癬は、切除やレーザー治療で治せる場合もあります。

4.インプラント治療による金属アレルギーを防ぐ方法

インプラント後の金属アレル ギーが心配な場合は、歯科医師に相談して予防するようにしましょう。特に、チタン以外の金属に対するアレルギーがある場合は、念のために相談するのをおすすめします。代表的な4つの予防法を紹介します。

4-1.事前にパッチテストを受ける

インプラントは、外科処置を伴い、治療費や治療期間といった負担の大きい治療法です。せっかく入れたインプラントを取り除く事態を防ぐにはパッチテストが効果的です。

 

チタンはもちろん、アルミニウム、ニッケルといった歯科治療によく使われる金属についてパッチテストを行うことで、金属アレルギーのリスクをおさえられます。

 

チタンはアレルギーを起こしにくい金属ですが、他の金属にアレルギーがあると、チタンにも反応が出てしまう可能性が高いといわれているので要注意です。歯科医師に相談のうえ、インプラント治療前にパッチテストを受けるとよいでしょう。

4-2.純度の高いチタンでできたインプラントを選ぶ

インプラント体を全てチタンで創ると、強度が足りず、噛む力に負けて折れてしまう可能性があります。そのため、チタン製のインプラント体であっても、アルミニウムなど他の金属を数%混ぜて使用します。

 

一般的なインプラント体であれば、チタンの比率が高く、混ぜる金属もアレルギーが起きにくい種類なので問題はありません。

 

しかし、チタンの比率が低く混合物が多い、粗悪なインプラントも存在します。混合物が多ければ金属アレルギーのリスクも高まります。

 

1本あたり10万円など相場よりも安すぎるインプラントには、要注意です。できるだけ、信頼できるメーカーの純度の高いチタン製インプラントで治療するようにしましょう。

4-3.アバットメントの素材にも気をつける

インプラントは、下記の3つのパーツで構成されています。

 

・インプラント体:あごの骨に埋める人工歯根

・アバットメント:インプラント体と被せ物をつなぐための小さなパーツ

・被せ物:外から歯として見える部分

 

アバットメントはインプラント体と被せ物の連結部分で、歯ぐきや口の中の粘膜に触れるパーツです。金属アレルギーを起こしにくいチタンや、非金属であるジルコニアを使用することで、リスクを減らせます。

4-4.金属を使っていない被せ物を選ぶ

歯科技術の進歩により、金属を使用しない被せ物でも長持ちするようになってきています。金属アレルギー防止のためには、ジルコニア・ジルコニアセラミック・セラミックといった非金属製の被せ物を選ぶと安心です。

5.金属アレルギーがあってもインプラントができる場合は多い!

金属アレルギーとは、特定の金属の成分に免疫機能が反応して、かゆみや炎症などを引き起こすことを指します。

 

あごの骨に埋め込むインプラント体は、金属アレルギーを起こしにくいチタンを使用するのが一般的です。

 

そのため、他の金属にアレルギーがあったとしても、チタンアレルギーでなければ、問題なくインプラント治療ができます。また、金属を全く使用しないジルコニアインプラントであれば、チタンアレルギーでもインプラント治療は可能です。

 

インプラント治療後に金属アレルギーが起きた場合は、パッチテストによりアレルゲンを特定し、金属の除去などの処置をします。

 

事前にパッチテストを受ける、純度の高いチタンでできたインプラントを選ぶ、アバットメントや被せ物の素材に気をつけるといった方法で、金属アレルギーのリスクを軽減できます。

金属アレルギーがあってもインプラント治療を受けている人はたくさんいます。金属アレルギーが気になってインプラントをためらっている方は、一度歯科医師に相談してみてはいかがでしょうか。

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