矯正治療とインプラントどっちを先にやったらいい?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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矯正治療とインプラント治療、どっちもやりたいという方も多いでしょう。

どちらの手術も見た目の改善はもちろん、噛み合わせなどの歯の機能の改善にも効果が期待できる治療です。

 

しかし、同時にこの2つの治療を行うことはできません。

では、どちらを先にした方がいいのでしょうか。

 

今回は矯正治療とインプラントの、治療を行う順番についてまとめました。

目次

1.矯正治療とインプラント

まず、矯正治療とインプラント治療、2つがどのような治療法であるか見ていきましょう。

1-1.矯正治療

矯正治療は、主に歯並びや噛み合わせを改善するための治療です。

治療方法は様々で、一般的なワイヤー矯正のほか、マウスピース矯正というものもあります。

それぞれの歯並びや顎の形に合わせて、最適な治療方法で、歯を並べ、かつ噛み合わせを改善していく治療です。

 

歯並びの状態によっては、歯を並べるスペースを確保するために、抜歯をしたり、顎の幅を広げる治療を先に行ったりすることもあります。

矯正治療の期間は個人差がありますが、短くても1年程度、歯並びを安定させるための保定期間も含めると3〜4年はかかると言われています。

1-2.インプラント治療

インプラント治療は、歯を失った際、または失いかけている際に、その歯の部分を補うための治療です。

歯を補う治療としては、他に入れ歯治療やブリッジ治療がありますが、それらの治療よりも、より自分の歯に近い感覚が取り戻せるのがインプラント治療だと言われています。

見た目もより自然で、自分の歯のような見た目が特徴です。

 

治療法にはいくつか種類がありますが、基本的には歯茎を開き、顎骨の中に人工歯根を埋め込む外科手術が必要となります。

その後、人工歯根と顎骨の結合を待ち、その上に人工歯を装着したら完成です。

人工歯根と顎骨が結合するスピードには個人差があるので、治療期間は人によって異なります。

インプラント治療1本の方は、手術自体は1日で終わりますが、その後の治療に半年から1年程度かかると言われています。

2.矯正治療とインプラント、どちらを先にするといいのか

矯正治療とインプラント治療は、基本的に同時進行はできません。

どちらの治療も治療期間が長くかかる治療であるため、患者の負担が大きいのが理由です。

 

そうであれば、どちらが先にした方がいいのでしょうか。

2-1.矯正治療を先にすることがほとんど

一般的にはインプラント治療よりも矯正治療を先にすることがほとんどです。

その理由は、インプラントの歯には、矯正器具をつけることはできないからです。

 

インプラントでは、失った歯の代わりに人工歯根を顎骨に埋め込む治療です。

天然歯の歯根は、歯根膜(しこんまく)という歯の根の周りを覆う膜があります。

この歯根膜が矯正治療において、歯を動かす際に大きな役割を果たすのですが、インプラントには歯根膜がありません。

人工歯根は顎骨と直接結合しています。

つまり、インプラントの歯は基本的に人工歯根を埋めた場所から、動かすことができないのです。

 

そのため、インプラント治療と矯正治療のどちらも行いたい場合には、矯正治療で歯並びをある程度整えてから、インプラント治療に移るのが自然です。

インプラント治療する箇所以外の不要な隙間を埋め、また歯を適切な位置に移動させることで、インプラント治療をしやすくすることにも繋がります。

 

2-1-1.先に矯正治療を行った後、インプラント治療をするタイミング

矯正治療を先にした場合、いつインプラント治療を行うのでしょうか。

このタイミングの見極めは主治医の考えによって大きく異なる部分です。

矯正治療が完全に完了してから、インプラント治療に移る場合もあれば、矯正治療である程度歯並びが整ったら、インプラント治療に移る場合もあります。

 

また矯正治療後には、歯列が元に戻ろうとする“後戻り”を防ぐために、リテーナーという装置をつける保定期間が設けられています。

そのリテーナーをつける保定期間に、インプラント治療を開始する場合もあります。

 

矯正治療後、インプラント治療を開始するタイミングは、矯正治療の担当医とインプラント治療の担当医が連携し、相談しながら決められることが多いです。

治療に入る前に、予めどのような治療計画で治療が進められるのか聞いておきましょう。

2-2.インプラント治療を先にすることも可能!

一般的には矯正治療の方を先に行うのが良いと考えられていますが、絶対にインプラント治療を先にできないというわけではありません。

あくまで例外ではあるのですが、次のようなケースでは、インプラントを先に行うこともあります。

 

2-2-1.歯を失った状態を長く放置しないケース

歯を失った状態が長く続くと、様々な悪影響が出る場合には、先に歯のない状態を改善するためにインプラント治療を先に行うことがあります。

例えば、歯がないので食べ物が噛めない、言葉が喋れない、呼吸に影響があるなどの場合です。

 

このケースでは矯正治療を先にすると、長期間食べられない、しゃべられないなどの日常生活に影響があります。

そのため、歯の本来の機能をインプラントで取り戻してから、歯並びを整える治療に入ります。

 

2-2-2.インプラントがあることで、矯正治療に有利に働くケース

インプラントは矯正治療で動かすことができないのですが、インプラントの状態が良ければ、他の歯を動かす際の固定源になることがあります。

インプラントを中心に、その他の歯を並べていくのです。

そちらの方が矯正しやすいという主治医の判断があれば、インプラント治療を担当する歯科医師と連携をとりながら、矯正治療を先に始めるケースもあります。

 

2-2-3.すでにインプラントが入っているケース

インプラントをすでに行なった後に、矯正治療をしたくなった場合には、主治医と相談後に矯正治療を始めます。

ただし、インプラントの歯は動かすことができないので、その他の歯をどのように動かして整えていくのかの治療計画を立てる際に苦労する場合も多いでしょう。

しかし、絶対にできないわけではありません。

 

また、今後もインプラント治療を行う予定があるのであれば、そのことも矯正治療を担当する歯科医師と相談しながら、最善の方法を提案してもらってください。

2-3.基本は主治医と相談

基本的には主治医と相談をしましょう。

患者によって、どちらを先にした方がいいのかは異なってくるからです。

 

・失った歯の本数

・インプラントを入れる本数

・歯並びの状態

 

などを、歯科医師は実際に見て検査した後、どちらが適しているのか判断し、治療計画を立てます。

 

また、矯正治療、インプラント治療よりも前に、虫歯や歯周病がある場合は、その治療を先に行うことが多いです。

矯正治療、インプラント治療だけでなく全ての歯科治療は、患者に合った最適の治療計画を立ててもらうことが重要です。

もし、治療計画に不安点があれば相談し、心配であればセカンドオピニオンを利用するなど、納得のいく治療計画を立ててもらってください。

3.インプラントを先に治療する場合の注意点

インプラント治療を先に行い、後で矯正することも可能だと分かりましたが、その場合には次のような注意点があります。

3-1.上部構造は再製することがある

矯正治療の際に、先にやったインプラント治療が、最初からやり直しになることはありませんが、上部構造(人工歯)部分は再製した方がいいことがあります。

その理由は矯正治療によって正常になった噛み合わせが、インプラントの人工歯の形と合わないことがあるためです。

噛み合わせが合わないと、人工歯やその周りの歯に負担がかかることがあります。

また、肩こりや頭痛などの全身症状に影響が出ることもあるため、人工歯を噛み合わせに合ったものにすることは重要です。

 

人工歯の再製は、5〜20万前後かかると言われています。

少し高いと感じるかもしれませんが、噛み合わせ不良による健康被害のことを考えると、再製するのが良いかもしれません。

3-2.インプラントの位置が矯正治療の妨げになる場合がある

インプラント治療を先に行う場合は、インプラントの部位を計算して、矯正治療計画を立てますが、インプラントの位置が障害となって、矯正が思うようにできない場合もあります。

この場合、インプラント治療をやり直すのは患者にも負担が大きいため、矯正治療をできる範囲で行うしかありません。

 

そのため、インプラント治療後に矯正治療を行う場合には、インプラントにも矯正治療にも精通した医師のいる歯科医院を選ぶのがおすすめです。

患者も納得のいく矯正治療の方法を見つけてもらいましょう。

4.インプラント矯正とは

最近は「インプラント矯正」という言葉を耳にすることも多くなりました。

このインプラント矯正とは、矯正治療の1つで、インプラントを顎骨へ埋め込み、それを起点にゴムなどで天然歯を動かすという治療法です。

 

実はこのインプラント矯正には、次の2つの方法があります。

・歯科矯正用アンカースクリューを使った方法

・固定式インプラントを利用する方法

 

歯科矯正用アンカースクリューとは、インプラント治療に使われるインプラントではなく、小さいミニインプラントのようなものです。

それを起点に歯並びや噛み合わせを整えた後は、顎骨から取り外します。

取り外すということは、そのアンカースクリューに人工歯を取り付けることはできません。

歯としての機能は持っていないということです。

 

それに対し、固定式インプラントはインプラント治療により顎骨に埋め込んだものを利用して、矯正治療を進める方法です。

先述したようにインプラントの歯は矯正装置がつけられず、動かせないので、逆にその特性を利用して他の歯を動かすのです。

矯正治療が終わった後も、そのインプラントの歯は歯として使用できます。

 

インプラント治療後に矯正を行う場合には、この固定式インプラントという治療法で矯正を行うことがほとんどです。

アンカースクリューを使う方法ではないということを覚えておきましょう。

5.矯正治療とインプラント治療両方する時は主治医に相談しよう

インプラントの歯は矯正治療によって動かすことはできません。

そのため、多くの場合先に矯正治療を行ってから、インプラント治療を行います。

しかし、ケースによってはインプラント治療を先に行った方がいいケースもあります。

どちらを先に行うかは、インプラント担当医、矯正担当医の双方の判断によって決定されます。

治療前に相談し、最適な治療計画を立ててもらいましょう。

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