インプラントと認知症リスクについて知りたいです!

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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老後について考える際に、避けて通れないのが「認知症」の問題です。認知症になると、脳の機能が低下し、日常生活に大きく支障をきたします。

 

認知症の原因ははっきりとわかっておらず、健康に気を配っていてもリスクはあります。しかし、最近の研究によってインプラントと認知症リスクに深い関係があるとわかってきました。

 

この記事では、インプラントと認知症の関係や高齢者がインプラントを入れるメリット・デメリットを解説します。健やかな老後を送るために、ぜひ参考にしてください。

目次

1.認知症とはそもそも何か

認知症とは、病気や障害をはじめとする何らかの原因によって、記憶や判断といった脳の認知機能が低下し、日常生活や仕事に支障をきたす状態を指します。認知症の原因は、はっきり特定できていません。

 

加齢による「もの忘れ」は脳の老化によって起こります。ものごとの一部のみを忘れるのにとどまり、ヒントがあれば思い出すことができ、日常生活に支障をきたしません。また、本人にもの忘れをする自覚があります。

 

認知症によるもの忘れは、脳の神経細胞が急激に破壊される場合が多く、ものごと全体を忘れてしまい、ヒントがあっても思い出せません。また、本人に自覚がなく、日常生活に支障が出ます。進行性があり、徐々にもの忘れが激しくなります。

 

認知症によって、何度も同じ話をしたり聞いたりする・ものを失くしやすくなる・約束を忘れる・同時に2つのことができなくなる・言葉が出にくくなる・家事や仕事の段取りが悪くなるなどさまざまな症状があらわれます。さらに、怒りっぽく攻撃的な言動をしたり、徘徊したりといったトラブルにつながる行動を起こす場合も少なくありません。

 

認知症にかかると、生活が上手く回らなくなり介護が必要になるなど、さまざまな悪影響が及びます。場合によっては、詐欺をはじめとする犯罪や命に関わる事故など深刻なトラブルが起こる場合もあります。老後の生活のために、認知症の予防は非常に重要です。

2.インプラントは認知症リスクにどう影響するの?

結論から言いますと、インプラントには認知症リスクを軽減する働きがあると考えられます。

 

2011年に神奈川歯科大学が行った厚生労働科学研究で、歯がほとんどなく入れ歯やインプラントなどの人工歯を使用していない人は、天然歯が20本以上残っている人と比べて認知症発症リスクが1.9倍も高いことが報告されています。

 

歯の本数が少ないと認知症リスクが高まる理由は、噛む力が低下するからです。噛む力が低下すると、脳の血流量の低下や食べる量の減少による栄養不足などが起きます。

 

同研究では、歯をほとんど失っていても人工歯を使用している人は、天然歯が20本以上残っている人と認知症のリスクに差がないと言う結果が出ました。

 

インプラントは、噛む力を天然歯とほぼ変わらないレベルまで回復できる治療法です。そのため、インプラント治療を受けて歯を補うことで、認知症のリスクを軽減できます。

3.認知症予防だけじゃない!高齢者がインプラント治療を受けるメリット

高齢者がインプラント治療を受けるメリットは、認知症予防だけではありません。主なメリットを紹介します。

3-1.全身の健康を維持できる

歯が少なくなると、食べ物を噛む力が低下してしまいます。特に奥歯は、食べ物をすり潰す役割を持つ重要な歯ですが、早い時期に失ってしまう人も少なくありません。

 

噛む力が衰えると、食べ物を充分に消化できず栄養不足になる、免疫機能が低下して全身疾患になりやすくなるといったリスクがあります。

 

インプラントで失った歯を補い噛む力を回復することは、全身の健康維持につながります。

3-2.誤嚥性肺炎を予防できる

「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」とは、食べ物やだ液が誤って気管に入ることで、肺に細菌が侵入して起きる肺炎です。

 

噛む力が衰えて喉や舌の骨の位置が下がると飲み込む力が低下し、気管に食べ物やだ液が入りやすくなり、誤嚥性肺炎になる可能性が高まります。

 

厚生労働省が発表した「令和3年(2021)人口動態統計」によると、日本人の死因の第6位は誤嚥性肺炎です。インプラントで噛む機能を回復することで、誤嚥性肺炎を予防し、死亡するリスクを軽減できます。

3-3.食事を楽しめる

インプラントは天然歯とほぼ変わらずに噛むことができるので、硬いものや弾力のあるものなどもスムーズに食べられます。

 

入れ歯は、口の中の粘膜を覆うつくりなので、味・熱さ・冷たさを感じにくく、食事を充分に楽しめないケースがあります。

 

インプラントであれば、味や食感を存分に楽しめます。食事は毎日のことなので、天然歯と同じように噛め、味を感じられるのはインプラントの大きなメリットです。

3-4.若々しい見た目を保てる

歯を失ってしまうと、口もとの印象が老けて見えてしまいがちです。インプラントを入れることで、歯並びが整い若々しい見た目を保てます。

 

入れ歯やブリッジでもある程度見た目を補えますが、留め具が見える・プラスチック素材が目につくため、インプラントの方がきれいに仕上がります。

 

また、見た目が自然なのにくわえ、ズレる心配がないため、会話の時に口元が気になることはほぼありません。

3-5.手入れがしやすい

入れ歯は取り外して、歯ブラシや入れ歯用ブラシで磨いたり、就寝時に水や薬液につけて洗浄したりしなければいけません。入れ歯と口の中どちらも掃除する必要があり、手入れの負担が大きいといえます。

 

入れ歯の手入れを怠ると、口臭・虫歯・歯周病に加え誤嚥性肺炎のリスクが高まります。また、入れ歯を取り外した時に、失くしたり壊したりする可能性もあるので要注意です。

 

インプラントは、あごの骨と一体化しており、天然歯を歯磨きするような感覚で手入れができるため、手間を省けます。

4.知らないと後悔?高齢者がインプラント治療を受けるデメリット

認知症予防だけではなく、健康や生活の質の維持に効果的なインプラントですが、デメリットもあります。

4-1.手術に耐えられる体力が必要である

インプラント治療は、歯ぐきを切り開いてあご骨にドリルで穴を開け、歯根の代わりになる「インプラント体」を埋め込んでから、歯ぐきを縫合するという流れです。

 

外科手術を行うため、ある程度は身体に負担がかかってしまいます。抜歯と同程度の負担ではありますが、高齢により体力が不足していると、手術できないかもしれません。

 

また、インプラント治療は治療期間が長く、治療完了後も定期メンテナンスが必要です。歯科クリニックに通い続けるための体力がないと、厳しいでしょう。

4-2.あごの骨量が少ないと治療を受けられない

高齢者の中には、歯周病や骨粗しょう症などの影響で骨量が少ない人も少なくありません、あまりにも骨量が少ないと、骨がインプラント体を支えられないため、そのままではインプラント治療が難しくなります。

 

足りない骨を補う「骨造成」という治療を行い、骨量を回復させてからインプラント治療をする方法もありますが、対応できる歯科クリニックは限られています。

4-3.持病があると高リスクである

糖尿病や梗塞などの患者は、傷の回復や免疫力の面で通常よりもインプラント手術のリスクが高まり、治療が難しくなるケースもあります

 

高齢者は持病がある人が多いので、インプラント治療をする際には健康状態への配慮が不可欠です。持病がある場合は、血液検査などで病状を確認し、病院の担当医と相談のうえインプラント治療の許可を得なければいけません。

 

安全にインプラント治療を進めるために、病院の担当医と歯科医師が連携し、持病を改善してからインプラントを入れるなどの対策を取ります。

 

歯科クリニックによっては、持病のある人のインプラント手術を受け付けていないので、最初の相談の段階で伝えましょう。

4-4.費用がかかる

ほとんどの場合、インプラントに保険は適用されません。自由診療のため歯科クリニックによって治療費は異なります。また、メンテナンス費用やあごの骨量が不足している場合の骨造成にかかる費用なども必要になります。

 

決して安い金額ではないため、事前に歯科クリニックで見積りをしてもらうと安心です。

4-5.定期メンテナンスのために通院しなければいけない

インプラントを安全・快適に使い続けるためには、歯科クリニックでの定期メンテナンスが欠かせません。

 

治療後に適切なメンテナンスをしないと、歯周病によく似た病気である「インプラント周囲炎」にかかる、かみ合わせが乱れるなどのトラブルの原因となります。その結果、インプラントが動揺したり、抜け落ちたりしてしまう可能性があります。

 

高齢者の場合は、介護が必要になったり通院が難しくなったりする可能性があるため、訪問診療の実施など何らかの対策をしている歯科クリニックがおすすめです。

5.インプラントは認知症予防に効果的!老後のために検討の価値がある治療法です

認知症は、病気など何らかの原因で、記憶や判断といった脳の認知機能が低下する病気です。加齢によるもの忘れよりも状態が深刻で、進行も早いため、生活がままならなくなるかもしれません。

 

認知症の原因ははっきりしませんが、噛む力と関係があるといわれています。インプラントで噛む機能を回復することで、認知症リスクの軽減が見込めます。

 

老後にインプラント治療を受けるメリットは、認知症リスクの軽減以外にも、全身の健康維持・誤嚥性肺炎の予防・食事を楽しめるなどたくさんあります。

 

しかし、手術に耐えられる体力が必要である、あごの骨量によっては治療を受けられないなどのデメリットもあります。とはいえ、インプラント治療は認知症を予防する効果的な方法なので、メリット・デメリットを踏まえて検討する価値は充分あります。

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