- この記事の監修者
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医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラントによって「健康な歯と同じように噛めるようになった」「自然な見た目になった」という患者は少なくありません。
確かに、インプラントは噛む機能や見た目を大きく回復させられる治療法です。しかし、残念ながら健康な歯にはない弱点もあります。
この記事では、インプラントと健康な歯の違いやインプラントの弱点、弱点をカバーし長持ちさせる方法について解説しています。
目次
- 1.インプラントってそもそもどんなもの?
- 2.インプラントと健康な歯の3つの違い
- 2-1.歯根膜の有無
- 2-2.歯肉繊維の方向
- 2-3.血液供給量が少ない
- 3.インプラントの弱点とは
- 3-1.噛む力によるダメージを受けやすい
- 3-2.感染に弱い
- 3-3.炎症が進行しやすい
- 4.インプラントを長持ちさせる方法とは
- 4-1.定期メンテナンスを必ず受ける
- 4-2.毎日の歯磨きを徹底する
- 4-3.噛み合わせを調整する
- 4-4.禁煙する
- 5.インプラントは健康な歯よりも弱点が多い!正しい手入れで長持ちさせよう
1.インプラントってそもそもどんなもの?
インプラントと健康な歯の違いを説明する前に、インプラントそのものについて解説します。
インプラントは、虫歯や歯周病、事故などで失った歯を補うための治療です。歯根の代わりにチタンなどでできた「インプラント体」と呼ばれるネジ状のパーツをあごの骨に埋め込み、骨とインプラント体が結合した後に、人工歯を上から装着します。
インプラント体を埋め込む際は、歯ぐきを切り開く・あごの骨に穴を開ける・切り開いた歯ぐきを縫合するといった外科処置をします。
インプラント体があご骨にしっかり固定されることにより、健康な歯と同じようにものを噛めるようになります。また、歯ぐきから人工歯が生えているように見え、見た目の違和感もほぼありません。
2.インプラントと健康な歯の3つの違い
噛む機能も見た目もほぼ健康な歯と変わらないインプラントですが、決定的な違いとして、歯根膜の有無・歯肉繊維の方向・血液供給量があげられます。
それぞれ解説します。
2-1.歯根膜の有無
健康な歯には、歯根の表面と歯を支えるあごの骨である「歯槽骨(しそうこつ)の間に「歯根膜(しこんまく)」が存在します。歯根膜は、弾力性が高い「コラーゲン繊維」が占める靭帯(じんたい)のような組織です。
歯根膜の次のような働きをしています。
(1)歯根と歯槽骨をしっかりつなぐ
歯根膜は非常に細い糸でできていて、両端が歯根と歯槽骨に入り込むことで、歯をあごの骨に強く固定しています。1本の歯に糸が結びつき支えているようなイメージです。
歯根膜は靭帯と同じく弾力性が高い組織なので、歯はしっかり固定されていても、ほんの少し動く余地があります。
(2)噛む力の衝撃を和らげる
食事をしたり歯を食いしばったりすると、歯に大きな力が加わります。歯根膜は、歯根と歯槽骨の間に歯を包み込むように存在し、衝撃を和らげるクッションのような役割をしています。
歯根膜があることで、歯や歯槽骨にかかる力を軽減でき、ダメージを防げます。
(3)噛んだ刺激を脳に伝える
歯根膜は、触覚や痛覚といった感覚を持っています。食事の時に「硬い」「やわらかい」といったような食感が脳に伝わるのは、歯根膜が刺激を感知して脳に伝えているからです。
また、刺激が脳に伝わることにより、大きすぎる力が加わっているのを感じて噛む力を調整することができます。
(4)細菌感染に対抗する
歯根膜のなかには、細菌感染に対抗する力を持つ「免疫細胞」が存在します。歯周病菌に感染して炎症が起きたとしても、免疫細胞の働きによりある程度炎症をおさえられます。
2-2.歯肉繊維の方向
歯肉は歯ぐきを指し、歯肉繊維は歯肉と歯を固定したり、歯肉の形を維持したりする役割を担っています。
健康な歯の場合は、歯肉繊維が歯根に対して垂直に走っています。さらにいろいろな種類の歯肉繊維が、骨とよく似た組織である「セメント質」に入り込み、非常に頑丈な構造をしています。
インプラントは、歯肉繊維がインプラント体に水平に走っており、健康な歯よりも強度が低い状態です。
2-3.血液供給量が少ない
健康な歯の場合は、歯肉・骨・歯根膜の3方向から血液が供給されます。しかし、歯根膜を失ったインプラントには、歯肉・骨の2方向からしか血液が供給されず、供給量が少ないといわれています。
血液は、歯の健康に欠かせない酸素や栄養、細菌に対抗する「好中球(こうちゅうきゅう)」を運ぶ役割を担っています。血液供給量が不足すると、酸素・栄養・好中球が不足し、歯の健康を損なうリスクがあるでしょう。
3.インプラントの弱点とは
インプ ラントは健康な歯と比べると、歯根膜がない・歯肉繊維の方向が水平である・血液供給量が少ないといった特徴があります。それらの特徴により、下記のような弱点が見られます。
3-1.噛む力によるダメージを受けやすい
インプラントは歯根膜がなく、インプラント体と骨が直接結合しています。そのため、ものを噛む時の力や歯ぎしり・食いしばりの力が、ダイレクトにインプラントやあごの骨にかかります。
また、歯根膜がないため、大きな負荷がかかっていても察知できず、噛む力を自然に調整することができません。
健康な歯と比べると、インプラントは噛む力によるダメージを受けやすく、破損などのリスクが高いといえるでしょう。
3-2.感染に弱い
インプラントは健康な歯に比べて血液供給量が少ない分、侵入してきた細菌に抵抗する好中球の数も少ない状態です。さらに、免疫細胞を持つ歯根膜も失われています。
そのため細菌に対する抵抗力が弱く、感染リスクが高いといえます。インプラント後の細菌感染により起こるトラブルのなかでも、特に注意が必要なのが「インプラント周囲炎」です。
インプラント周囲炎とは、歯周病とよく似た病気です。インプラントの周りにある歯肉などの組織が歯周病に感染して炎症を起こし、進行すると歯肉や歯槽骨が破壊されます。
最終的には、あご骨の減少によりインプラント体を支えきれなくなり、ぐらついたり抜け落ちたりする原因になります。
インプラント周囲炎は、インプラントが使えなくなる原因のなかでも、特に多いものなので要注意です。
3-3.炎症が進行しやすい
健康な歯の歯肉線維はセメント質に入り込み、歯根としっかりくっついています。しかし、インプラント後の歯肉繊維は、インプラント体と並行に走っているだけなので、結びつきが弱い状態です。そのため、ちょっとしたきっかけで歯肉がはがれてしまいます。
インプラント周囲炎などが原因で炎症が起きると歯肉がすぐにはがれ、炎症が奥の方まで進行するリスクが高いと考えられます。
さらに免疫細胞を含む歯根膜がないため歯周病菌が増殖しやすく、インプラント周囲炎の進行スピードは一般的な歯周病の2~5倍といわれています。
4.インプラントを長持ちさせる方法とは
イン プラントは健康な歯と比べ、噛む力によるダメージを受けやすい・細菌に感染しやすい・炎症が進行しやすいといった弱点があります。
これらの弱点の対策をすることで、インプラントを長持ちさせられます。おすすめの方法は、下記の通りです。
4-1.定期メンテナンスを必ず受ける
定期メンテナンスによって、噛み合わせの乱れ・インプラントの破損・インプラント周囲炎などの異常を早期発見でき、悪化を防げます。
インプラント周囲炎は進行スピードが早いうえに、初期段階では自覚症状が少ないため、歯科クリニックでチェックしてもらうようにしましょう。
また、歯垢や歯石をクリーニングで取り除いてもらえるのも定期メンテナンスを受けるメリットです。歯垢や歯石にはインプラント周囲炎の原因である歯周病菌などの細菌が多く含まれており、放置すると感染につながります。
特に歯石は、通常の歯磨きでは取り除くのが困難です。定期メンテナンス時に落としてもらうのをおすすめします。
4-2.毎日の歯磨きを徹底する
定期メンテナンスでクリーニングを受けても、毎日の歯磨きが不充分だと歯周病菌が増殖し、インプラント周囲炎になりかねません。
歯科クリニックで歯磨き指導を受け、正しいブラッシングで毎日歯を磨くことが大切です。
歯磨きの際は、軽い力で磨く・1ヵ所につき歯ブラシを10往復させる・歯と歯ぐきの間は歯ブラシを45度の角度であてて汚れをかきだすように磨くといった点を意識しましょう。
また、汚れが落ちにくい歯と歯の間はデンタルフロスや歯間ブラシなどを使うなど、歯ブラシ以外の道具を使うのもおすすめです。
4-3.噛み合わせを調整する
噛み合わせが乱れていると、特定の場所に噛む力が過剰にかかります。インプラントは歯根膜がなく、健康な歯と比べ噛む力が大きくかかるので、噛み合わせが乱れている場合はしっかり調整しましょう。
また、歯ぎしりなどの噛み癖がある場合は、体重の2~5倍もの噛む力がかかると言われています。就寝時に装着するマウスピースである「ナイトガード」を使用すると、歯の負担を軽減できます。
4-4.禁煙する
たばこに含まれるニコチンには、免疫力のもととなる白血球の働きを低下させる作用があります。喫煙によって細菌への抵抗力が弱まると、インプラント周囲炎のリスクが高まります。
さらにニコチンには、血液の流れを阻害する作用もあります。血液の流れが滞った結果、歯ぐきやあご骨に充分な酸素や栄養が届きにくくなり、手術でできた歯ぐきの傷が治りにくい・インプラント体とあごの骨の結合が進まないといったトラブルが起きるかもしれません。
インプラントをするのであれば、なるべく禁煙しましょう。どうしてもタバコをやめられない場合は、本数を減らし、少しでも悪影響をおさえるのをおすすめします。
5.インプラントは健康な歯よりも弱点が多い!正しい手入れで長持ちさせよう
インプラントは、噛む機能や見た目を健康な歯と変わらないレベルまで回復できる治療法です。しかし、歯根膜の有無・歯肉繊維の方向・血液供給量の3点が決定的な違いです。
これらの違いによりインプラントには、噛む力によるダメージを受けやすい・感染に弱い・炎症が進行しやすいという弱点があります。特に、インプラントのぐらつき・脱落につながるインプラント周囲炎には注意が必要です。
インプラントを長持ちさせるには、定期メンテナンスを必ず受ける・毎日の歯磨きを徹底する・噛み合わせを調整する・禁煙するといった対策が効果的です。
しっかり手入れをしてインプラントの寿命を伸ばしましょう。