インプラント治療にAIは取り入れられてますか?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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「AI(人工知能)」は、ビジネスなどさまざまな分野で注目を集めている最先端の技術です。医療分野でもAIは広く使われており、インプラント治療も例外ではありません。

 

この記事では、インプラント治療にAIが取り入れられている事例やAIを活用したインプラント治療の研究内容、AI以外のインプラント治療関連の新しい技術について解説します。

目次

1.AIとはそもそもどんなもの?

AI とは、人間の言葉を理解する・論理的にものごとを推測する・経験をもとに学習するといった、人間の脳が行う知的な作業をコンピューターが再現するプログラムのことです。

 

AIそのものは1950年代頃から知られていましたが、近年「機械学習」と「ディープラーニング(深層学習)」の登場により、急速に進化・普及しました。

 

機械学習とは、データの特徴を数値化したものなど事前にインプットした設定に基づき、プログラムが自動的にデータを分析して学習し、データの背景にあるル―ルやパターンを見つける方法です。主に、検索エンジンやビッグデータ分析に使用します。

 

ディープラーニングは、機械学習の一種です。プログラムそのものが大量のデータや設定の抽出を繰り返し、分析・学習のもととなる設定を学習します。一般的な機械学習と比べ、プログラムに任せられる部分がより多いのが特徴です。主に、顔画像認識や天気予報などに使われています。

 

現在AIは、お掃除ロボットやクレジットカードの不正利用検知など幅広い分野に使われており、歯科治療への導入も進んでいます。

2. インプラント治療におけるAIの活用を紹介

AIを活用することでスピーディーかつ質の高いインプラント治療ができるため、治療に取り入れる事例が増えています。実際のインプ ラント治療において、AIがどのように活用されているか紹介します。

2-1.画像解析

インプラント治療を成功させるためには、あごの骨の厚さ・形状、神経や血管の位置などを高精度で把握し、適切な位置や角度でインプラント体を埋め込む必要があります。

 

AIによってレントゲン写真やCTスキャンの画像といった歯科画像を解析することで、口の中の状態を正確に把握でき、インプラントの成功率を上げられます。

 

また、歯周病や歯根の異変などを発見できるため、トラブル防止に役立ちます。

2-2.人工歯の製作

以前はインプラント体に取りつける人工歯は、歯科技工士の手作業によってデザイン・製作されていました。

 

しかし現在は、製品の設計図を描くための支援ソフトである「CAD」と工作機械で製品を加工するためのプログラムを作成するソフトである「CAM」を導入する歯科技工所や歯科クリニックが増えています。

 

AIによる人工歯の製作では、これまで歯科技工士が行っていたCADによるデザインをAIが担います。大量の歯科技工物のデザインデータを活用することで、患者一人ひとりの口の中の状態に合わせたデザインが可能です。

 

検査データをAIに送信するだけでデザインが生成されるので、作業時間を大幅に短縮できます。

 

AIを使用することで、高精度の人工歯を早くつくれるため、歯科技工士の人材不足解消にもつながると期待されています。

3.インプラントにAIを活用する研究について

現在、より精度の高いインプラント治療を目指し、AI を活用する研究が進められています。AIの進歩は非常にスピードが早いため、活用範囲はより広がっていくでしょう。代表的な研究内容をいくつか紹介します。

3-1.インプラントの結果予測

「オッセオインテグレーション」やインプラント治療の成功AIを活用し予測する研究が行われています。オッセオインテグレーションとは、チタンと骨が直接結合している状態です。

 

インプラント体は一般的にチタンでできています。オッセオインテグレーションによってあごの骨に埋め込んだインプラント体と骨が強く結合することで、インプラントが安定し、噛む力が天然歯と変わらないレベルまで回復します。

 

インプラント治療は成功率の高い治療法ですが、オッセオインテグレーションが上手くいかないなどの理由で失敗してしまうケースもあります。患者のデータをもとに、事前にAIで成功する可能性がどれくらいか予測する技術が普及すれば、治療の失敗を防げるでしょう。

3-2.インプラントの種類の判別

インプラントは種類によって形・サイズ・素材が違い、使用するドライバーやスクリューも異なります。そのため、どのインプラントを使用しているか特定しないと、インプラント治療後の施術やメンテナンスはできません。

 

現在は、歯科医師がレントゲン画像を見て文献や知識を基に、インプラントの種類を判断しています。しかし、インプラントメーカーは世界で百社以上あり、他のクリニックで埋め込んだインプラントを判別するのは非常に大変です。

 

そこでAIにインプラントの画像データを学習させ、患者のレントゲン画像をもとに使用しているインプラントの種類を判別する研究が行われています。

4.AIだけじゃない!インプラント関連の新しい技術

AIの 活用以外にも、インプラント治療の新しい技術は多数開発されています。代表的なものを紹介します。

4-1.光機能化技術

インプラント体は、チタンと骨が結合するオッセオインテグレーションによりあごの骨に固定されます。しかし、チタンの表面に大量に付着した炭素が原因で、チタンと骨との結合が不完全な状態になってしまいます。

 

炭素が多く付着することで、インプラント体が水分に触れてもなじまずに弾いてしまい、インプラント体と骨を結合させる役割を持つ細胞がつきにくくなるためです。

 

また、インプラントの製造から時間が経過するほど、チタンに付着する炭素の量が増え、結合力が低下してしまいます。

 

「光機能化技術」とは、インプラント体の表面に特殊な紫外線をあてることで、炭素を取り除き、チタンを表面に出す技術です。光機能化処理後は、インプラント体が水に触れるとすぐに広がってなじむため、細胞が付着しやすくなります。

 

光機能化処理をしないインプラント体と比べ、骨との結合力が3倍以上増加し、100%近く結合します。結合力の高さから、光機能化処理をしたインプラント体と骨の結合は「スーパーオッセオインテグレーション」と呼ばれます。

 

光機能化の主なメリットは、インプラント体と骨の結合がスムーズに進むことによる治療期間の短縮と、結合が強い分インプラントの寿命が長くなることです。

 

光機能化技術は、日本でも2012年の時点で200以上の歯科クリニックや総合病院などで導入されており、現在はより普及していると考えられます。

4-2.骨造成

あご骨の高さ・密度・サイズが不充分だと、インプラント体をあごの骨に埋め込んでもしっかり支えられません。

 

昔はあごの骨量が足りない場合はインプラント治療を諦めざるを得ませんでしたが、手術により骨を増やす「骨造成」を行うことで治療を受けられるケースが増えてきました。

 

骨造成の代表的な方法は、「ソケットリフト」「サイナスリフト」「GBR法」の3つです。

 

(1)ソケットリフト

上あごの骨の高さが足りない場合に行う治療法です。専用の器具を使用し、歯が生えていた場所から移植骨を入れ、上の奥歯の歯根から目の下に位置する空洞である「上顎洞(じょうがくどう)」を押上げて充分な骨の高さを確保します。インプラントを同時に埋め込むことができ、治療期間が3~4ヶ月とやや短い方法です。

 

(2)サイナスリフト

骨が薄い・範囲が広いといった理由でソケットリフトによる対応が難しい場合に用いられる方法です。上顎洞の横の歯ぐきを切開してめくり、上顎洞をむき出しにして直接上に持ち上げ、スペースに移植骨を入れます。骨の状態が安定するまで半年ほど待ってから、インプラント体を埋め込みます。

 

(3)GBR法

あご骨の幅と高さどちらも足りない場合に行う方法です。骨補填材や患者本人の歯を砕いたものを歯肉の中に入れ保護膜をとりつけることで、骨の再生を促します。骨が再生するまでに3〜6ヶ月かかりますが、状態によってはインプラント体を同時に埋め込むことができます。

5.AIを活用したインプラント治療で、成功率は上がる!

画像解析や人工歯の製作などインプラント治療にAIが活用されており、スピーディーで質の高い治療に役立っています。

 

現在、インプラント治療結果の予測やインプラントの種類の判別などにAIを活用する研究が進んでおり、今後ますますAIを取り入れたインプラント治療は進歩するでしょう。

 

また、AI以外にも、インプラント体と骨の結合力を大幅に高める光機能化技術、手術により骨を補う骨造成など、インプラント治療に関する新しい技術が次々と生まれています。

 

AIをはじめとする最先端の技術の導入により、より精密な治療ができ、インプラントの成功率が向上していくと考えられます。歯科クリニックを選ぶ際は、新しい技術を取り入れているかチェックするのも方法1つです。

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