- この記事の監修者
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医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラント治療において、適切な位置にインプラント体を埋め込むことは非常に大切です。適切な位置に埋め込むための新しい技術として注目を集めているのが「Xガイド」です。
2020年に日本国内で展開が始まったばかりの技術で、次世代のインプラント治療とも呼ばれています。しかし、まだ新しい技術なのでXガイドがどんなものかわからない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、Xガイドの概要やメリット・デメリットを解説します。インプラント治療を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
- 1.Xガイドとはどんなものか
- 1-1.Xガイドとは
- 1-2.Xガイドを使用した治療の流れ
- 2.従来のサージカルガイドを使用した治療法
- 2-1.サージカルガイドとは
- 2-2.サージカルガイドを使用した治療の流れ
- 3.Xガイドを利用するメリット
- 3-1.インプラント体を正しい位置・角度に埋め込める
- 3-2.手術中のトラブルを回避できる
- 3-3.治療期間を短縮できる
- 3-4.手術に使用できるスペースが広い
- 3-5.オーバーヒートのリスクが低い
- 4.Xガイドを利用するデメリット
- 4-1.導入している歯科クリニックが少ない
- 4-2.治療費がさらにかかる可能性がある
- 4-3.歯科医師のスキルに結果が左右される
- 5.Xガイドを使えばより正確なインプラント治療ができる!
1.Xガイドとはどんなものか
最初にXガイドとは何かについて解説します。
1-1.Xガイドとは
Xガイドとは、あらかじめコンピューター上でシミュレーションした通りに、インプラント体を埋め込めるよう、ガイドするシステムのことです。CT撮影からインプラント手術まで全ての工程をデジタル上で実施できる点が特徴です。
これまで脳神経外科など高度な精密さが求められる領域で用いられてきたデジタル技術などを活用しており、効果の高さから2020年3月時点で、30ヶ国以上で導入されています。
インプラント治療を成功させるには、どこに人工歯を装着すれば正しく機能するのか、あごの骨のどこに穴を開ければインプラント体が安定するのかという2つの視点から治療計画を立てることが重要です。Xガイドは、両者のシミュレーションを同時にできるため、機能性・安定性に優れたインプラント治療を実現できます。
また、手術中にドリルの位置をリアルタイムに追跡することで正確な位置・角度でインプラント体を埋め込めます。いわばカーナビで現在位置を確認しながら運転するような感覚で、インプラント手術を進められます。
1-2.Xガイドを使用した治療の流れ
Xガイドを使用した治療のおおまかな流れは下記の通りです。
【1】診察・検査
診察とX線写真による検査などを行い、口の中の状態を確認します。検査結果をもとに、埋め込む本数やインプラント治療に付随する手術、治療期間といった治療プランを立てます。
【2】CT撮影
CTで口の中を撮影し、骨の厚みや形状、血管や神経の位置などインプラント治療において大切なデータを立体的に把握します。
【3】データをもとに具体的な治療計画を作成
Xガイドを使用し、データをもとに詳しく解析・シミュレーションを実施し、具体的な治療計画を作成します。
【4】インプラント手術
コンピューターが解析したデータやCT画像、ドリルの位置、神経・血管の場所などをリアルタイムで確認しながら手術を進めます。
2.従来のサージカルガイドを使用した治療法
これまでインプ ラント体を正確な位置・角度に埋め込むための方法は、「サージカルガイド」が主流でした。ここではサージカルガイドについて解説します。
2-1.サージカルガイドとは
サージカルガイドとは、インプラント治療で使用するマウスピース型の器具です。サージカルガイドには、インプラント体を埋め込む適切な位置・角度・深さに基づき、穴が開けられています。
サージカルガイドを使用し物理的にドリルで穴を開ける位置・角度を制限することで、正確な治療につなげています。
不適切な場所に埋め込んだことが原因でインプラントとあごの骨がスムーズに進まない・周りの神経や血管を傷つけてしまうといったトラブルを防げます。
また歯ぐきを大きく切開する必要がないため、手術後の痛みや腫れを最小限におさえられるのも大きなメリットです。
2-2.サージカルガイドを使用した治療の流れ
サージカルガイドによるインプラント治療の流れは、下記の通りです。
【1】診察・検査
診察とX線写真による検査などを行い、治療プランを作成します。
【2】CT撮影
CTで口の中を撮影し、治療に必要なデータを集めます。
【3】石膏模型を作成
患者の歯型をとり、サージカルガイド作成に必要な石膏模型をつくります。
【4】石膏模型をもとに埋め込み位置を検討
CT撮影などの検査で得たデータをもとに、立体的にインプラント治療のシミュレーションを実施。石膏模型と照らし合わせ、インプラント体のサイズや埋め込み位置・角度などを決めます。
【5】サージカルガイドを作成
検討結果に基づき、正しい場所に穴を開けられるようサージカルガイドを作成します。
【6】インプラント手術
サージカルガイドを固定し、インプラント手術をします。サージカルガイドに沿って、あごの骨に穴を開け、インプラント体を埋め込みます。
3.Xガイドを利用するメリット
Xガ イドを利用する主なメリットを紹介します。
3-1.インプラント体を正しい位置・角度に埋め込める
Xガイドには、「Xクリップ」という器具を患者の口に装着し、ドリルの先端の位置情報をリアルタイムで割り出す機能があります。そのため、適切にドリルを使用できているかを確認しながら、手術を進められます。
サージカルガイドの場合、石膏模型の作成やサージカルガイドの調整など工程が多いため、いろいろな工程で小さな誤差が発生。それらが積み重なった結果、大きな誤差につながるリスクがあります。
CT撮影から手術までの工程がデジタル化されているXガイドの方が、誤差が生じにくい傾向にあります。
3-2.手術中のトラブルを回避できる
リアルタイムで骨の中の神経や血管の様子を確認できるため、手術中に想定外の出来事が起きた場合も柔軟な対応ができ、安全かつ質の高いインプラント治療が可能です。
サージカルガイドは、事前のシミュレーション結果に基づいて決めた位置・角度でしか穴を空けられないようにして精度を高める器具です。そのため、想定外の出来事に対応しにくいというデメリットがあります。
手術中のトラブルへの対応力は、Xガイドの方が優れているといえるでしょう。
3-3.治療期間を短縮できる
サージカルガイドを使用したインプラント治療は工程が多く、調整が必要な分、治療期間が長くなります。Xガイドであれば全てデジタルでシミュレーションするため、治療期間を短縮できます。
3-4.手術に使用できるスペースが広い
サージカルガイドを装着すると、器具の厚みの分、手術時に使用できるスペースである「術野(じゅつや)」が狭くなってしまいます。
顎関節症などが原因で口を大きく開けるのが難しい患者は、サージカルガイドによって術野が狭まると、器具を口の中に入れにくくなり、治療が受けられない場合も少なくありません。
Xガイドであれば、サージカルガイドを使用しないため術野が広くなり、口を大きく開けられない人でもスムーズに治療を受けられる可能性が高まります。
また、無理に大きく口を開ける必要がない分、患者の負担軽減にもつながります。
3-5.オーバーヒートのリスクが低い
「オーバーヒート」とは、あごの骨に穴を開ける際にドリルと骨の摩擦によって発生する熱により、骨がやけどのような状態になってしまうことです。オーバーヒートが起きると、インプラント体と骨の結合がスムーズに進まず、治療完了まで時間がかかる・上手く定着しないといったデメリットがあります。
そのため、ドリルを使用するときは水を注入して冷却しながら処置します。しかし、サージカルガイドはドリルを安定させるために最小限の穴しか開いておらず、水の行き場がないため冷却しにくく、オーバーヒートのリスクが高まります。
Xガイドはサージカルガイドを使用しないため、冷却水の注入がしやすく、オーバーヒートのリスクを軽減できます。
4.Xガイドを利用するデメリット
Xガイドはデメリットが少ない治療法ですが、下記の3点には要注意です。
4-1.導入している歯科クリニックが少ない
Xガイドが一般の医療機関に提供されるようになったのは、2020年とごく最近です。そのため、まだまだ導入している歯科クリニックが少ないのが現状です。
Xガイドによるインプラント治療を希望しても、対応できる歯科クリニック探しに苦労するかもしれません。住んでいるエリアによっては近隣に導入している歯科クリニックが全くなく、Xガイドを使用するのを諦めたり遠方まで受診にいったりしなければいけない可能性があります。
4-2.治療費がさらにかかる可能性がある
インプラント治療の費用は基本的に保険が適用されない自費診療のため、Xガイドを利用する費用はクリニックごとに異なります。また、インプラント治療費用に含まれている場合と含まれていない場合があるので、事前に見積りを出してもらい、トータルの金額を確認しましょう。
4-3.歯科医師のスキルに結果が左右される
Xガイドを使用することで、手術中にドリルの位置をリアルタイムで確認でき、インプラント体を最適な位置・角度に埋め込めます。
しかし、位置を正確に確認できたとしても歯科医師の技術が低ければ、埋め込みに失敗する可能性があります。また、インプラント治療の結果を左右するのは、インプラント体を埋め込む位置だけではありません。感染症対策なども重要なので、Xガイドに対応できるかだけではなく、経験の豊富さやスキルにも注目して、歯科医師を選びましょう。
5.Xガイドを使えばより正確なインプラント治療ができる!
Xガイドは、コンピューター上でインプラント体を埋め込む位置をシミュレーションし、手術中にリアルタイムでドリルの位置や血管・神経の場所などを確認できるシステムのことです。2020年に日本で導入がスタートしたばかりで、新しい技術として注目されています。
インプラントを正確な場所に埋め込める・手術中のトラブルを回避できる・治療期間を短縮できるなどメリットが多く、従来のサージカルガイドを使用したインプラント治療よりも優れている部分が少なくありません。
その反面、導入している歯科クリニックが少ない・治療費がさらにかかる可能性がある・歯科医師のスキルに結果が左右されるといったデメリットもあります。
Xガイドを使用することでインプラントの成功率が上がる可能性は高いので、もし興味がある場合は、導入している歯科クリニックを探して相談してみましょう。