インプラントのメンテナンス「MTM」とは?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

インプラントを長持ちさせるには、治療後のメンテナンスによって口の中の状態を良好に保たなければいけません。一般的な定期メンテナンスを受けるだけでも効果は十分ありますが、新しいメンテナンス方法を取り入れることで、さらに寿命を伸ばせる可能性があります。

 

スウェーデンで生まれた「MTM(メディカルトリートメントモデル)」は、虫歯や歯周病予防に効果的なメンテナンス方法で、インプラント後の口内環境の維持に役立ちます。この記事では、MTMの概要や流れを詳しく解説します。

目次

1.インプラントのメンテナンスについて解説

インプラントを失う主な理由は、「インプラント周囲炎」です。インプラント周囲炎とは、歯周病に良く似た病気で、歯周病菌が歯ぐきなどインプラント周辺の組織に感染することで発症します。

 

最初のうちは歯ぐきの赤みや腫れが出る程度ですが、重症化すると歯ぐきやあごの骨を破壊します。あごの骨が減少してインプラントを支えきれなくなると、ぐらつくようになり、最終的には抜け落ちてしまいます。

 

感染の原因となるのが、細菌のかたまりである歯垢と歯垢が時間の経過によって硬くなった歯石です。歯垢や歯石が溜まると口の中の歯周病菌が増え、インプラント周囲炎の発症リスクが高くなるので要注意です。

 

インプラント治療後の定期メンテナンスでは、専用の器具や薬剤を用いてクリーニングし、歯垢や歯石を取り除きます。特に歯石は通常の歯磨きでは取り除けないので、歯科クリニックでのクリーニングが必要です。クリーニングにより、インプラント周囲炎にかかりにくくなります。

 

また、インプラント周囲炎は歯周病よりも進行スピードが非常に早く、気がついた時には重症化しているかもしれません。定期メンテナンスによって、早期発見・早期治療ができれば、インプラントを失うリスクを減らせます。

 

その他、噛み合わせの乱れやインプラントの破損・ネジのゆるみ、周りの天然歯の虫歯などのトラブルも、定期メンテナンスによって解消できます。

2.MTMとは

MTMは、歯科予防先進国であるスウェーデンで生まれた予防プログラムです。これまでの歯科治療は、虫歯や歯周病などで症状が出た部分を外科的に修復したり、補ったりするものでした。

 

しかしMTMは、科学的根拠に基づいて、患者一人ひとりに合った虫歯や歯周病のリスク管理・予防することで口の中の健康を維持し、歯を長持ちさせるためのプログラムです。

 

口腔内写真撮影・だ液検査・歯周病検査などさまざまな検査を行って結果を分析し、虫歯や歯周病のリスクを評価します。歯科医師は、専用ソフトを用いて患者に結果を説明したうえで、原因を取り除くためのオーダーメイドの予防ケアを提案します。虫歯・歯周病にかかっている場合は、最小限の治療も行います。

 

患者が虫歯・歯周病のリスクを理解し、歯科医師・歯科衛生士とともに主体的にセルフケアと歯科クリニックでの定期メンテナンスをすることで、口の中の健康を維持できる状況を確立することが目標です。

 

インプラント周囲炎は、歯周病と同じく歯周病菌が引き起こす病気です。歯周病のリスク管理・予防をすることで発症しにくくなり、インプラントを長持ちさせられます。

3.MTMの流れ

MTMは、小児診療と成人診療で流れが異なります。インプラントを受ける患者の多くは成人のため、ここでは成人診療の流れを解説します。成人の場合は、9段階にわかれます。

3‐1.初診(1回目の来院)

初診では下記のような検査・処置を行います。

 

(1)問診

口の中の状態について詳しくヒアリングします。不安点・疑問点などがあれば、問診時に質問しましょう。

 

(2)検査

主に下記のような検査を行います。

 

・口腔内写真撮影

患者が歯ぐきの見た目や歯垢の付着具合など、口の中の状態を客観的に把握できるよう、写真を撮ります。初めに写真を撮影しておくことで、治療やメンテナンスが進んでから、変化を確認できます。

 

・だ液検査

だ液に含まれる細菌数が多くなると、虫歯・歯周病・インプラント周囲炎のリスクが高まります。また、だ液が少ないと細菌が増殖しやすくなります。だ液を採取して、細菌数やだ液量を検査します。

 

・歯周病検査

歯肉の腫れや出血、歯のぐらつき、歯と歯の間の溝である「歯周ポケット」の深さなどを検査し、歯周病かどうかを確認します。

 

・レントゲン撮影

レントゲン撮影をすることで、外見からはわからない歯やあごの骨の状態を確認します。

 

・磨き残しの検査

歯垢がついている部分が赤く染まる薬剤を使用し、どの部分に磨き残しがあるのかを把握します。

 

・食生活の調査

虫歯菌・歯周病菌が増えやすくなる原因の一つに、食生活があります。食生活に関するアンケート結果をもとに、リスクを調べます。

 

(3)応急処置

痛みがあるなど、すぐに治療が必要な歯を応急処置します。

 

(4)担当歯科衛生士の紹介

MTMでは、担当歯科衛生士がついて口の中の健康維持をサポートします。担当の歯科衛生士から、今後の治療・ケアについての簡単な説明を行います。

3‐2.説明・指導(2回目の来院)

2回目の来院では、検査結果や予防プログラムの説明・歯磨き指導・クリーニングを行います。

 

(1)検査結果の説明・予防プログラムの提案

だ液の量・質・虫歯菌の数など初診の検査・問診の結果に基づき、歯科医師と歯科衛生士が、虫歯・歯周病のリスクについて、専門ソフトやグラフなどを使って説明します。

 

歯垢が多い場合は、患者に歯垢を染色した画像を見てもらうケースもあります。

 

一人ひとりの虫歯・歯周病のリスクの高さやリスクの要因などを反映させ、予防プログラムを作成。検査結果やデータを患者に共有します。

 

(2)セルフケア指導

歯磨きが不十分または適切でない場合、歯垢などの汚れが溜まりやすく、虫歯や歯周病のリスクが高まります。担当の歯科衛生士によるブラッシング指導により、正しいケア方法を身につけましょう。

 

(3)クリーニング

歯科衛生士が専用の機器や薬剤を使用し、通常の歯磨きでは取り除ききれない、歯垢や歯石を落とします。特に歯石は、ブラッシングでは落とせないので、歯科クリニックでのクリーニングが非常に重要です。

3‐3.初期治療(3回目の来院)

3回目の来院では、主に歯周病検査と「スケーリング」と「ルートプレーニング」をします。

 

(1)歯周病検査

クリーニングなどこれまでの処置やケアによって、歯ぐきの腫れや出血といった歯周病の症状が改善されたかをチェックします。

 

(2)スケーリング・ルートプレーニング

スケーリングは、「スケーラー」と呼ばれる器具を使い、歯の表面の歯石や細菌のかたまりである「バイオフィルム」を取り除く処置です。スケーラーには、超音波スケーラーや手用スケーラーがあります。汚れが落ちにくい場合は手用スケーラーを使い、手作業で取り除かなければいけません。

 

ルートプレーニングは、歯周ポケットの中に溜まった歯石を取り除く処置です。毒素が浸透したセメント質を除去する場合もあります。

 

スケーリング・ルートプレーニングは歯石の付着状況などに応じて、数回行う可能性もあります。

 

(3)セルフケアの指導

2回目の来院時に指導した通り、適切なセルフケアができているか確認します。磨き残しがある場合などは、再度ブラッシング指導をします。

3‐4.評価(4回目の来院)

これまでの初期治療やセルフケアによって、歯垢や歯石などの歯の汚れや歯周病の症状がどのように変化したかを確認します。

 

(1)歯周病検査

歯肉の腫れ・出血・歯のぐらつきなど、歯周病の症状が改善されたかを確認します。

 

(2)口腔内写真撮影

口の中の写真を再度撮影し、初期治療を経て状態がどのように変化したのかを確認します。

 

(3)レントゲン撮影

歯やあごの骨の状態を正確に把握するためにレントゲン撮影をします。

3‐5.治療(5回目の来院)

初診時の応急処置では治しきれなかった虫歯などを治療します。歯への影響を最小限におさえつつ、重症度に合わせて治療します。

3‐6.再評価(6回目の来院)

虫歯治療を終えたら、歯周病検査・口腔内写真撮影・レントゲン撮影・だ液検査などを実施します。これまでの治療によって、歯周病の状態がどのくらい改善したか確認します。

3‐7.2回目の説明(7回目の来院)

これまでの治療経過の説明やセルフケア指導、クリーニングを行います。MTMの検査と治療は今回で終了です。

 

(1)治療経過の説明

初診からこれまでの検査結果や口の中の状態を比較し、変化を説明します。検査結果などのデータや撮影した写真を使い、どのように改善したかをチェックし、今後の予防計画を確認します。

 

(2)セルフケア指導

正しいブラッシングができているかを確認し、不十分な点は再度指導します。

 

(3)クリーニング

専用の器具や薬剤を使用し、歯垢や歯石を取り除きます。虫歯を防ぎ、歯の質を強化するためにフッ素を歯の表面に塗布します。

3‐8.SOT(8回目の来院)

「SOTサポーティブオーラルセラピー」とは、メンテナンスに入る前に、患者にセルフケアと歯科クリニックでのケアの意義を理解してもらい、正しいケアができるようになるためにサポートすることです。

 

担当の歯科医師によるセルフケア指導や歯のクリーニング、フッ素の塗布なども行います。

3‐9.メンテナンス(3カ月に1回ペース)

SOTが終了して口の中の状態が改善されても、虫歯・歯周病・インプラント周囲炎のリスクがゼロになったわけではありません。今後も良い状態を維持するために、3カ月に1回のペースでメンテナンスを受けます。

 

歯周病検査・セルフケア指導・スケーリングとルートプレーニング・クリーニング・フッ素の塗布・口腔内写真撮影・レントゲン撮影などを行います。

4.MTMはインプラント周囲炎の予防に効果的!

MTMは、虫歯や歯周病のリスクを科学的な根拠に基づいて評価し、クリーニングなどの処置やセルフケアを適切に行うことで、虫歯や歯周病にならない口内環境を整えるメンテナンス方法です。一人ひとりに合わせてケアするため、効果が高いといわれています。

 

インプラントを失う主な原因のひとつであるインプラント周囲炎は、歯周病菌に歯ぐきが感染することで起きる病気なので、MTMによる予防効果が期待できます。

 

MTMの流れは、歯科クリニックに集中的に8回通い、検査・クリーニング・治療などを受け、その後3カ月に1回ペースでメンテナンスを受けるのが一般的です。

 

口の中の健康を守り、インプラントを長持ちさせたい人は、MTMを検討してみてはいかがでしょうか。

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