- この記事の監修者
-
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/
インプラント手術は、歯ぐきの切開など外科処置があるため「インプラントにしたいけれど怖い」と悩んでいる方も多いと思います。
「筋肉内鎮静法など恐怖をおさえる麻酔をすることで、リラックスして手術を受けられます。手術が怖いという理由でインプラントをためらっていた方は、ぜひ検討してみましょう。
この記事では、「筋肉内鎮静法」をはじめとするインプラント手術時の麻酔の概要や筋肉内鎮静法のメリット・デメリットについて解説します。安心して手術を受けたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
- 1.インプラントの麻酔は大きくわけて2種類
- 2.筋肉内鎮静法・静脈内鎮静法・笑気ガスについて解説
- 2‐1.筋肉内鎮静法
- 2‐2.静脈内鎮静法
- 2‐3.笑気ガス麻酔
- 3.インプラント手術中に全身麻酔をするケースは少ない
- 4.筋肉内鎮 静法のメリットとは
- 4‐1.リラックスして手術を受けられる
- 4‐2.副作用のリスクが低い
- 4‐3.手術時間が短く感じる
- 4‐4.インプラント手術をより安全に受けられる
- 5.筋肉内鎮静法のデメリットとは
- 5‐1.副作用などのリスクがある
- 5‐2.対応できる歯科クリニックが少ない
- 5‐3.受けられないケースがある
- 5‐4.費用がかかる
- 6.筋肉内鎮静法でリラックスして手術を受けよう!
1.インプラントの麻酔は大きくわけて2種類
イン プラントの麻酔は大きく、手術する部位の痛みをおさえる「局所麻酔」とインプラント手術に対する緊張や恐怖を軽減する麻酔にわかれます。
インプラント手術は、歯ぐきの切開やあごの骨にドリルの穴を開ける、切開した歯ぐきを縫うといった外科処置を伴うため、痛みが発生します。
局所麻酔は、手術する場所周辺の神経の近くに局所麻酔薬を注射して痛みを感じる「末梢神経(まっしょうしんけい)」の働きをおさえることで、痛みを軽減する麻酔のことです。インプラント手術では、基本的に局所麻酔をして手術を行います。
しかし、局所麻酔を打った患者の意識ははっきりしているため、痛みがなくても「口の中を手術されている」という感覚はなくなりません。また、手術や歯科治療に対する恐怖もあります。
そこで安心してインプラントを受けられるよう、筋肉内鎮静法や「静脈内鎮静法」「笑気ガス」といった処置により、緊張や恐怖を和らげる場合があります。
ただし、緊張や恐怖を和らげる麻酔は、痛みをおさえる効果はありません。局所麻酔と併用することで、恐怖も痛みも感じずに快適にインプラント手術を受けられます。
特に、歯医者に行くと動悸や身体のこわばりが出る「歯科恐怖症」の患者や高血圧など持病のある患者、認知症の患者などは、これらの処置によって、インプラント手術を受けやすくなるケースが少なくありません。
2.筋肉内鎮静法・静脈内鎮静法・笑気ガスについて解説
ここでは、緊張や恐怖を和らげる麻酔である筋肉内鎮静法・静脈内鎮静法・笑気ガスについて解説します。
2‐1.筋肉内鎮静法
筋肉内鎮静法とは、肩の筋肉や口の中の粘膜に「ドルミカム」と呼ばれる鎮静剤を少量注射することで、リラックスした状態にする処置のことです。
使用する鎮静剤の量が少ないため、身体の負担が比較的軽い麻酔です。口の中の粘膜に注射する場合は、あらかじめ局所麻酔をしているため、針を刺す時の痛みをほぼ感じません。
筋肉内鎮静法を打つと、半分眠っているような状態が、1~2時間ほど続きます。緊張や恐怖、不安が取り除かれ、本当にリラックスした状態で治療を受けることができます。時間の感覚が薄れ「あっという間に手術が終わった」と感じるほどです。
処置中はうとうととしている状態ですが、意識そのものはあるため、医師との受け答えができ、体調変化なども伝えられます。
血圧などにも影響せず安全性の高い麻酔ですが、治療中は心電図や血圧計などの全身状態をリアルタイムで確認できる「生体モニター」を使用して全身管理を実施します。多くの場合、麻酔専門医なしで処置できます。
効果が切れるとほぼ通常通りの日常生活を送れるようになるのも特徴です。ただし、治療後の自動車・自転車の運転は控えましょう。
2‐2.静脈内鎮静法
静脈内鎮静法は、「セデーション」とも呼ばれ、鎮静剤を点滴して腕の静脈から注入する方法です。
筋肉内鎮静法と同じく、半分眠ったような状態になり、リラックスして手術を受けられます。うっすらと意識があるので、医師との受け答えも可能です。
静脈内鎮静法に使用する薬剤には呼吸をおさえる作用があり、生体モニターを使って全身管理を行います。筋肉内鎮静法よりもリスクが大きいため、麻酔専門医が担当するケースが多い処置です。
治療後しばらく眠気・ふらつきが残るため、院内で休んでから帰宅します。当日は、自動車・自転車の運転や仕事など重要な判断を伴うことは避けましょう。
2‐3.笑気ガス麻酔
笑気ガス麻酔とは、不安や恐怖心を軽減する作用のある笑気ガスを鼻から吸引して行う麻酔です。少しぼんやりしますが、意識はあるため歯科医師とも会話できます。
笑気ガスは毒性がなく、数分程度で体外に排出されます。副作用の心配はほぼなく、回復も早いため、子どもやお年寄りも安心して受けられる処置です。
ただし、筋肉内鎮静法や静脈内鎮静法と比べると効果が穏やかです。そのため、インプラントを入れる本数が多い場合や患者の恐怖心が強い場合は、筋肉内鎮静法や静脈内鎮静法の方が適しています。
3.インプラント手術中に全身麻酔をするケースは少ない
全身麻酔は、点滴またはマスクによる吸入によって鎮静剤を体内に入れ、脳を含む神経細胞の活動をおさえる麻酔方法です。筋肉内鎮静法などとは異なり、完全に意識がなくなります。そのため、痛み・恐怖・緊張を感じず、手術を受けられます。
ただし、他の麻酔方法と比べてリスクが大きく、インプラント手術では基本的に全身麻酔はしません。筋肉内鎮静法や静脈内鎮静法で対応できないなど、限られた場合のみ全身麻酔をします。
自発呼吸しなくなるため、人工呼吸器を使った呼吸管理が必要です。麻酔専門医が、生体モニターをチェックしながら厳重に全身管理を行います。
麻酔後の回復に時間がかかるため、手術後は入院します。吐き気・嘔吐・頭痛・のどの痛みといった副作用もあるので注意が必要です。
全身管理と入院ができる設備、専門の医師どちらも備えている歯科クリニックは非常に少ないのが現状です。また、管理が厳重かつ入院が必要なため、他の麻酔よりも費用が高額です。
4.筋肉内鎮静法のメリットとは
筋肉内鎮静法の主なメリットを紹介します。
4‐1.リラックスして手術を受けられる
鎮静剤の効果で、うたたねのような状態になり、恐怖心・緊張・不安を感じずにインプラント手術を受けられます。
筋肉内鎮静法は使用する薬剤の量が少ないものの、鎮静効果が高く、静脈内鎮静法とほぼ変わりません。笑気ガス麻酔と比べて鎮静効果が高いので、恐怖心が強い患者にも適しています。
4‐2.副作用のリスクが低い
静脈内鎮静法と比べて使用する薬剤の量が少ないのが特徴です。薬剤の量が少ない分、副作用のリスクも低い処置です。
血圧へも影響しないため、高血圧や糖尿病といった全身疾患がある患者のインプラント治療にも適しています。全身管理は必要なものの、安全性が高い処置だといえるでしょう。
4‐3.手術時間が短く感じる
インプラントを埋め込む本数が多い場合など、インプラント手術の時間が長いと、その分患者にかかるストレスが大きくなります。
筋肉内鎮静法を受けると、手術の体感時間が短くなるため、ストレスを軽減できます。効果に多少の個人差はあるものの「あっという間に手術が終わった」と感じる患者も少なくありません。
4‐4.インプラント手術をより安全に受けられる
インプラント手術は、安全性の高い手術ですが全くリスクがないわけではありません。筋肉内鎮静法を受けている間は、血圧などの身体の状態を生体モニターで監視しています。そのため、万が一、手術中に身体に異変が起きた場合もすぐに歯科医師などが気づき、適切な対処が可能です。
5.筋肉内鎮静法のデメリットとは
リラックスして手術を受けられるなど、多くのメリットがある筋肉内鎮静法ですが、デメリットも存在します。代表的なものを紹介します。
5‐1.副作用などのリスクがある
筋肉内鎮静法は安全性の高い麻酔ですが、絶対に安全というわけではありません。万が一の事態に備えて、筋肉内鎮静法を用いたインプラント治療の実績が豊富な歯科クリニックを選ぶのがおすすめです。
診察時にメリット・デメリットを聞き、納得したうえで受けるようにしましょう。
5‐2.対応できる歯科クリニックが少ない
筋肉内鎮静法は、生体モニターによる全身管理が必要です。そのため、筋肉内鎮静法ができる歯科クリニックは限られています。
インプラント手術への不安が大きいなどの理由で筋肉内鎮静法を希望する場合は、インプラント手術を受ける歯科クリニックを選ぶ際に、対応可能かどうかあらかじめ確認しておきましょう。
5‐3.受けられないケースがある
使用する薬剤へのアレルギーや持病などの関係で、筋肉内鎮静法ができないケースもあります。特に全身疾患がある、薬を飲んでいるといった場合は、必ず歯科医師に相談しましょう。筋肉内鎮静法を受けられない場合でも、笑気ガス麻酔など他の方法で対応できる場合もあります。
5‐4.費用がかかる
インプラントは基本的に保険適用外です。そのため、インプラント手術時の筋肉内鎮静法も全額自己負担になります。歯科クリニックによって料金が異なるため、事前に金額を確認しておきましょう。
ただし、麻酔専門医の管理が不要な場合が多く、静脈内鎮静法よりも費用をおさえられます。リラックスして手術を受けられるメリットは大きいので、検討の価値は十分あります。
6.筋肉内鎮静法でリラックスして手術を受けよう!
筋肉内鎮静法は、肩の筋肉や口の中の粘膜に鎮静剤を注射し、恐怖・緊張・不安を和らげる麻酔です。インプラント手術時は、痛みをおさえる局所麻酔と併用します。筋肉内鎮静法以外の恐怖を軽減する麻酔には、静脈内鎮静法や笑気ガス麻酔があります。
筋肉内鎮静法のメリットは、リラックスして手術を受けられる・副作用のリスクが低い・手術時間が短く感じる・インプラント手術をより安全に受けられるなどです。
副作用のリスクや対応可能な歯科クリニックの少なさといったデメリットもありますが、インプラント手術に恐怖心がある患者にとっては、効果的な処置です。
興味のある方は、まずは歯科クリニックに相談してみましょう。