インプラントのオペ前に「ビタミン」を注入する?!

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

インプラントは成功率の高い治療法ですが、事前の検査やオペ時に使用する道具・設備などの工夫で、さらに成功率を高められます。

 

インプラントの成功率を高めるには、オペ前にビタミンを注入するのも方法のひとつです。ビタミンには、手術後の回復をサポートするなどの効果があります。

 

この記事では、インプラントのオペ前にビタミンを注入する主な治療法である「高濃度ビタミンC複合点滴」と「マイヤーズカクテル点滴」について解説します。さらに、ビタミン以外に積極的にとるとよい栄養素についても紹介するのでぜひ参考にしてください。

目次

1.高濃度ビタミンC複合点滴とは

高濃度ビタミンCを点滴する治療法です。ビタミンCには健康維持に大切なさまざまな作用がありますが、人間は自分の体内でビタミンCをつくれないため、不足しがちです。

 

点滴によって大量のビタミンCをとることで、身体の調子を整えられます。副作用のリスクが低く、がん患者に対しても広く行われています。

 

ここでは、ビタミンCの働きや高濃度ビタミンC複合点滴の効果について解説します。

1-1.ビタミンCの働き

ビタミンCには、「抗酸化作用」「抗炎症作用」「コラーゲンの生成」といった働きがあります。それぞれ解説します。

 

(1)抗酸化作用

人間の身体を酸化させる働きがある「活性酸素」の働きをおさえる作用です。体内の活性酸素が多すぎると、健康な細胞にダメージが加わり、血管など身体のさまざまな部分の老化が進みます。その結果、細胞の生まれ変わりがスムーズに進まなくなり、傷の回復の遅れや免疫力の低下につながります。ビタミンCを十分にとることで、身体の酸化を防げます。

 

(2)抗炎症作用

起きている炎症を鎮める作用です。炎症による腫れ・赤みなどをおさえ、健やかな状態に整える効果があります。

 

(3)コラーゲンの生成促進作用

コラーゲンは、皮膚や骨、筋肉などの材料となるタンパク質で、人間の身体に存在するタンパク質のうち約30パーセントを占めます。

 

ビタミンCを十分にとることで、コラーゲンの生成が促進され、皮膚・骨・筋肉などを健やかな状態に保てます。

1-2.高濃度ビタミンC複合点滴による効果

高濃度ビタミンC複合点滴を受けることで、下記のような効果が期待できます。

 

(1)傷の回復の促進

インプラント手術では、歯ぐきを切開してインプラント体をあごに埋め込む外科処置が必要です。ビタミンCの抗酸化作用やコラーゲンの生成促進作用によって、手術した場所がスムーズに回復します。また、抗炎症作用があり、手術後の炎症をしずめる効果も期待できます。

 

(2)インプラント周囲炎の予防

「インプラント周囲炎」とは、インプラント周辺の歯ぐきなどが歯周病菌に感染することで起きる病気です。歯周病と同じく、最初は歯ぐきに軽い炎症が起きる程度ですが、悪化すると歯ぐきやあごの骨が溶けていき、最終的にはインプラントが抜け落ちてしまいます。ビタミンCの抗酸化作用によって、免疫力を高められるため、歯周病菌への感染リスクを軽減できます。

 

また、歯ぐきにもコラーゲンは多く含まれており、ビタミンCを多くとることでコラーゲンの生成が進み、インプラント周囲炎による歯ぐきの破壊を防ぐ効果が期待できます。

 

インプラント手術後の回復・歯周病予防以外にも、疲労の軽減・肌のハリの維持やシミ予防などさまざまな効果が期待できます。

2.マイヤーズカクテル点滴とは

人間の身体に必要なビタミン・ミネラルなどの栄養素を豊富に含んだ点滴をすることで、治癒力を高める治療法です。アメリカで生まれた治療法で、現在では全米で行われています。

点滴には一般的に、ビタミンB群・ビタミンC・マグネシウム・カルシウムが含まれています。もともと人間の体のなかにある栄養素を注入するため、副作用はほぼありません。

なかでもビタミンB群には抗炎症作用があり、手術後の歯ぐきの炎症をおさえられます。

インプラントのオペの前後に点滴することで、手術後の傷の回復を促進する効果やインプラント周囲炎を予防する効果などが期待できます。また、慢性疲労や偏頭痛など、幅広く健康維持に効果があります。

3.点滴とサプリ・注射の違いとは

ビタミンをとる方法には、サプリや点滴もあります。ここでは、点滴と注射やサプリとの違いについて解説します。

3-1.サプリとの違い

サプリは点滴とは異なり血管に針を刺す必要がなく、費用も安価です。また、治療時間もかからないため、「サプリの方がよいのでは」と思う方もいるでしょう。

 

しかし、サプリなどによって口から一度にたくさんビタミンをとったとしても、全てが身体に吸収されるとは限りません。通常のビタミンCは一定以上の量をとると、消化・吸収されず尿と一緒に排出されてしまいます。

 

例えば.高濃度ビタミンC複合点滴であれば、血液中に直接ビタミンCなどを入れることができ、サプリの数十倍以上の血中濃度に達します。短時間で栄養素が全身に届くため、高い効果が期待できます。

 

歯科クリニックで点滴を受け集中的に栄養素を補給し、日々のケアは手軽に使用できるサプリを利用するといった使いわけをするのも方法のひとつです。

3-2.注射との違い

注射と点滴の最大の違いは、治療時間です。注射であれば5分ほどで完了しますが、点滴は少しずつ薬剤を注入するため、30分くらいかかります。

 

しかし、一度に大量の栄養素を注入する場合、点滴で時間をかけて投与した方が痛みを軽減できます。どちらを選ぶのかは、歯科医師とよく相談しましょう。

4.ビタミンを注入する治療を受けるデメリット

ビタミンの注入は、インプラント治療の経過を良くする効果があります。しかし、副作用・費用などデメリットもあるので、注意しましょう。

4-1.副作用のリスクがある

高濃度ビタミンC複合点滴とマイヤーズカクテル点滴は、副作用の少ない治療法です。しかし、点滴の速度や血管の状態などによって、頭痛や血圧低下などが起きるリスクがあります。温めたり点滴速度を遅くしたりすることで対応できるので、異変が起きたらすぐに相談しましょう。

 

他の点滴と同じく、点滴漏れ・針を刺している部分の痛み・細菌感染・内出血・神経損傷などが起きる可能性もあります。

 

さらに、「G6PD欠損症」の患者がビタミンC複合点滴を受けた場合、血液中の赤血球の膜が壊れ、「ヘモグロビン」が漏れて、貧血状態になります。めまい・立ちくらみ・どうき・息切れ・だるさなどの症状が出て、重症の場合は輸血が必要となります。

 

最悪の場合は命にもかかわるため、初めて高濃度ビタミンC複合点滴を受ける患者に対しては、G6PD欠損症検査を行います。

4-2.費用がかかる

インプラントのオペの前後に、高濃度ビタミンC複合点滴やマイヤーズカクテル点滴を受ける場合は、追加で費用がかかります。

費用は歯科クリニックや注入する成分の量によります。

さらに、高濃度ビタミンC複合点滴の場合は、G6PD欠損症検査の費用がかかる場合もあります。インプラント治療そのものの費用が高いため、事前に見積もりをとってトータルの治療費を確認しておきましょう。

4-3.治療できる歯科クリニックが限られている

高濃度ビタミンC複合点滴とマイヤーズカクテル点滴どちらも、インプラント治療にあたって必須の治療ではありません。あくまでオプションなので、受けられない歯科クリニックも多いのが現状です。

希望する場合は、あらかじめ歯科クリニックと相談し治療が受けられるか確認しておきましょう。

5.ビタミンだけじゃない!インプラントのオペ前後にとりたい栄養素とは

インプラント治療の経過を良くするには、栄養バランスが大切です。ビタミンCをはじめとするビタミン以外にも、とった方が良い栄養素はたくさんあります。インプラント治療前後に積極的にとりたい栄養素を紹介するので、必要に応じて食事やサプリなどで補いましょう。

5-1.カルシウム

人間の体内にあるカルシウムのうち約99パーセントが、骨と歯に存在しています。カルシウムは、丈夫な骨をつくるために欠かせない成分です。

 

インプラント手術では、あごの骨に穴を開けてインプラント体を埋め込むため、手術後は骨がダメージを受けている状態です。さらに、インプラントはインプラント体とあご骨が固く結合することで固定されます。そのため、骨がスムーズにつくられないと、治療後にインプラント体が安定しない可能性があります。

 

カルシウムは体内に吸収されにくい性質があり、食事で摂取した量のうち7~8割が体外に出てしまうといわれているほどです。十分にとっているつもりでも不足しやすいので、インプラントのオペの前後は積極的にとるようにしましょう。

 

カルシウムを豊富に含む代表的な食品としては、牛乳やチーズをはじめとする乳製品・小魚・小松菜などがあります。

5-2.タンパク質

タンパク質をとると体内でアミノ酸に分解され、筋肉・臓器・肌などの材料として使われます。歯ぐきにもタンパク質が多く含まれているため、積極的にとることでインプラントのオペによる傷が回復しやすくなります。

タンパク質を多く含む主な食品は、肉・魚介類・卵・大豆・大豆製品・牛乳・乳製品です。

5-3.亜鉛

亜鉛は、「必須ミネラル」と呼ばれ、人間が生きるうえで欠かせないミネラルのひとつです。タンパク質の合成や細胞の再生に関係する栄養素で、不足すると傷が治りにくくなります。インプラント手術後は、歯ぐきなどに傷ができている状態なので、亜鉛を十分にとるようにしましょう。

 

亜鉛は、ナッツ類、肉・魚介類・大豆などに多く含まれています。肉・魚介類・大豆は、タンパク質も豊富に含まれているので、特におすすめです。

6.ビタミンを点滴してインプラントの成功率を高めよう!

インプラントのオペの前後にビタミンを注入することで、傷の回復の促進・インプラント周囲炎の予防につながり、手術後の経過が良くなります。

 

インプラントのオペ時に行われるビタミンを注入する治療としては、高濃度ビタミンC複合点滴とマイヤーズカクテル点滴があります。

 

ただし、副作用のリスクがある・費用がかかる・治療できる歯科クリニックが限られているといったデメリットがあるので、まずは歯科医師と良く相談しましょう。

 

インプラントのオペ前後に、おすすめの栄養素はビタミンだけではありません。カルシウム・タンパク質・亜鉛も手術後の回復に役立ちます。

 

インプラントは成功率の高い治療法ですが、必要な栄養素を補給することで経過が良くなるので、積極的にとるようにしてください。

この記事が気に入ったら「評価」ボタンを押してください!

★★★★★

評価する