インプラントは一生ものですか?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

インプラントは、あごの骨に穴を開け、歯根の代わりとなるインプラント体を埋め込み、上から人工歯をかぶせて固定する治療法です。失った歯の噛む機能と外見を大幅に回復でき、「第二の永久歯」とも呼ばれています。

 

しかし、「永久歯といってもどのくらい使えるの?」「せっかくなら一生ものの治療を受けたい」など、寿命が気になっている方も多いのではないでしょうか。

 

この記事では、インプラントの寿命・インプラントが使えなくなる原因と対処法・インプラントを長持ちさせる方法などについて解説します。

目次

1.インプラントの寿命はどのくらい?

インプラントの寿命は、歯周病の有無やあごの骨量をはじめとする患者の状態・インプラントを入れた場所・使用したインプラントの品質・医師の技術などによって異なりますが、一般的には10~15年が目安です。

 

厚生労働省が発表した「歯科インプラント治療のための Q&A」には、手術で埋め込んだインプラントが10~15年経過しても使い続けられる割合は、90%以上と記載されています。

 

ただし、20年・30年と長期間にわたってインプラントを使い続けている患者も少なくありません。現在はチタンがインプラントの素材の主流ですが、1965年に初めてチタン製のインプラント治療を受けた患者は、亡くなるまで40年以上にわたって同じインプラントを使い続けました。

 

現在は当時と比べてインプラント体の質・治療技術・設備が向上しているため、より長持ちさせられる可能性は十分あります。

 

インプラントは治療の結果・手術後のメンテナンス・患者の体質などによっては、一生ものの治療になるといえるでしょう。

2.インプラント以外の方法で歯を補った場合の寿命

失った歯を補う方法は、インプラントだけではありません。代表的なものとして、入れ歯・ブリッジがあります。

 

入れ歯の寿命は4~5年、ブリッジは7~8年が目安なので、インプラントの方が長持ちする傾向にあります。治療から10年経過した後に使い続けられる割合は、インプラントが90%以上なのに対し、入れ歯は40%前後、ブリッジでも5割程度です。

 

インプラントの寿命が長い主な理由は、歯根の代わりになるインプラント体にチタンを使用している、人工歯にセラミックを使用しているの2点です。

 

チタンは人間の身体になじみやすい性質で耐久性も高い素材です。セラミックも、化学反応によって外見・機能が損なわれにくい性質があります。そのため、他の素材でつくったものよりも、長持ちする可能性が高いでしょう。治療後の寿命を重視する患者には、インプラントが適しているといえます。

3.インプラントが使えなくなる原因

インプラントは長持ちしやすい治療法ですが、トラブルなどによって使えなくなってしまう場合もあります。主な原因は、以下の通りです。

3-1.インプラント周囲炎

インプラント周囲炎とは、歯周病菌が歯ぐきをはじめとするインプラント周辺の組織に感染することにより起きる病気です。歯垢・歯石などの汚れが口の中にたまると、歯周病菌が増え、感染リスクが高まります。

 

初期のインプラント周囲炎の症状は、歯ぐきに軽い炎症が出る程度です。しかし、次第に出血・腫れなどの自覚症状が出て、歯ぐきやあごの骨が破壊されます。あごの骨量が大幅に減少すると、インプラント体を支えきれなくなり、ぐらつくようになります。最悪の場合、インプラント体があごの骨から抜け落ちて使えなくなってしまいます。

 

歯周病とよく似た病気ですが、進行スピードが非常に早く、自覚症状が出たころにはインプラントが使えなくなっている場合もあるほどです。

3-2.あごの骨量の減少

インプラントが抜け落ちてしまう原因は、インプラント周囲炎だけではありません。加齢や骨粗しょう症などによって、あごの骨の量が大幅に減少すると、インプラント体を支えきれなくなってしまいます。

3-3.インプラントの破損

インプラントは、破損によって使えなくなってしまう場合があります。

 

インプラントが破損する主な理由は、噛み癖・歯並び・周りの天然歯の虫歯などによって、過剰な力がかかることです。また、粗悪なインプラント体は耐久性が低く、破損のリスクが高いため注意しましょう。

3-4.インプラント手術の失敗

インプラント手術に失敗すると、インプラント体とあごの骨がしっかり結合せず、治療後にぐらつき・脱落を起こし、すぐに使えなくなってしまう可能性があります。

 

インプラント手術の主な失敗としては、インプラント体を埋め込む位置が不適切である・ドリルの熱によって骨がやけどのような状態になるオーバーヒートが起きたの2つがあげられます。

4.インプラントが使えなくなったらどうする?

インプラントが使えなくなった場合の対処法は、大きく3つにわかれます。

4-1.インプラントを修理する

破損が原因でインプラントが使えなくなった場合は、修理することでまた使えるようになるケースもあります。

 

かぶせものである人工歯や人工歯とインプラント体をつなぐアバットメントの破損であれば、パーツの交換・修理などで解決します。しかし、インプラント体が破損した場合は、基本的に交換・修理では対応できません。

4-2.再治療する

インプラント体が破損したり抜け落ちたりした場合は、インプラントを撤去して、再度インプラント体を埋め込む再治療をします。

 

ただし状態によっては、インプラント周囲炎の治療や骨量を増やす骨造成などをしてからでないと、再治療できません。そのため、最初のインプラント治療よりも、高額な費用がかかり、治療期間が長くなる可能性があります。

 

多くの歯科クリニックでは、保証制度を設けており、保証期間内かつ一定の条件を満たしていれば、無料または低価格で再治療を受けられます。保証期間は、インプラント治療から5〜10年が一般的です。いざという時のために、保証内容や保証条件を把握しておきましょう。

4-3.インプラントを撤去して入れ歯・ブリッジを入れる

あごの骨の状態などが原因で、インプラントの再治療ができないケースもあります。その場合は、インプラント体を撤去して、入れ歯またはブリッジで失った歯を補います。

5.インプラントの寿命を伸ばす方法

インプラントが使えなくなると、撤去・再治療などが必要となります。なるべく寿命を伸ばすために、下記のような点を意識しましょう。

5-1.質の高い治療ができる歯科クリニックを選ぶ

インプラント治療の質が高ければ、その分長持ちしやすくなります。インプラントの症例実績が多い歯科医師であれば、適切な治療ができる可能性が高いでしょう。

 

また、あごの骨の状態など口の中を立体的に把握できる歯科用CT・事前にシミュレーションした通りの場所にインプラント体を埋め込むための器具であるサージカルガイド・細菌感染を防ぐ専用の手術室など、機器や設備が充実した歯科クリニックを選ぶのも効果的です。

5-2.格安インプラントを避ける

格安インプラントとは、1本あたり10万円以下など極端に安い価格で治療しているインプラントを指します。

 

適切なインプラント治療をするには、質の高いインプラントを使用したり精密な検査をしたりとコストがかかります。

 

格安インプラントは費用が安い分、粗悪なインプラントを使用している・最小限の検査しかしない・スキルの低い歯科医師が担当する・保証やアフターフォローがあまりないなど何らかの問題がある場合が少なくありません。

 

重大なトラブルが起き、治療後すぐにインプラントが使用できなくなる可能性があるので、注意しましょう。

5-3.定期メンテナンスをしっかり受ける

インプラントを長持ちさせるうえで、歯科クリニックでの定期メンテナンスは非常に重要です。定期メンテナンスでは、口の中やインプラントの状態のチェック、クリーニングなどを行います。

 

定期メンテナンスを受けることで、インプラントの破損・インプラント周囲炎・かみ合わせの乱れなどの異変を早期発見し、重大なトラブルになる前に対応できます。

 

また、クリーニングによって歯垢・歯石を取り除くことで、インプラント周囲炎の予防にもなります。

 

さらに保証制度の利用条件に、「医師の指示通りに定期メンテナンスを受けている」という項目が設けられているケースは少なくありません。万が一の場合に、治療費の負担を軽減できるよう、定期メンテナンスをしっかり受けましょう。

5-4.歯磨きなどのセルフケアを正しく行う

定期メンテナンスでクリーニングを受けるだけでは、口の中を清潔に保つことはできません。毎日のセルフケアを正しく行う必要があります。セルフケアが不十分だと、口の中で歯周病菌が増殖し、インプラント周囲炎のリスクが高まります。

 

歯科クリニックでブラッシング指導を受け、毎日正しい方法で歯を磨くようにしましょう。デンタルフロスをはじめとするケア用品を使い、歯の間など汚れがたまりやすい場所をきれいにするのも効果的です。

5-5.禁煙する

タバコにはニコチンなどの有害物質が含まれており、血行の悪化や免疫力の低下の原因となります。

 

手術による傷の治りが遅くなる・インプラント体とあごの骨の結合の妨げになる・感染リスクが高まりインプラント周囲炎のリスク増など、インプラントの寿命を縮めるトラブルの原因となるので要注意です。

 

禁煙するのが一番良いですが、難しい場合はタバコの本数を減らしましょう。

6.インプラントが一生ものになるかは対策次第!

インプラントの寿命は、10~15年といわれていますが、20年以上使えるケースも少なくありません。なかには、40年以上同じインプラントを使い続けた症例もあります。入れ歯やブリッジよりも長持ちしやすいので、寿命を重視する場合はインプラントが適しているでしょう。

 

インプラントが使えなくなる主な原因は、インプラント周囲炎・あごの骨量の減少・インプラントの破損・手術の失敗です。

 

使えなくなった場合は、インプラントの修理や再治療、入れ歯・ブリッジ治療などを行います。

 

インプラントの寿命を伸ばすためには、質の高い治療ができる歯科クリニックを選ぶ・格安インプラントは避ける・定期メンテナンスをしっかり受けるといった方法が効果的です。

 

インプラントを一生使い続けられるよう、しっかり対策しましょう。

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