
- この記事の監修者
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医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラントは、あごの骨に穴を開け、歯根の代わりとなるインプラント体を埋め込み、人工歯を取り付ける治療法です。
「インプラント体を骨に埋めても安定しないのでは?」と疑問に思っている方もいるのではないでしょうか?
インプラントは、埋め込んだインプラント体と骨が固く結びつくことで、安定します。この記事では、インプラントが骨と結合する仕組み・上手く結合しない理由・結合しない場合の対処法・スムーズに結合させる方法を解説します。
目次
- 1.インプラントが骨と結合する仕組みを解説
- 2.インプラントと骨が上手く結合しない理由とは
- 2-1.骨の状態が悪い
- 2-2.オーバーヒートを起こしている
- 2-3.埋め込み位置・角度が適切でない
- 2-4.初期固定に失敗した
- 2-5.喫煙している
- 2-6.糖尿病などの全身疾患にかかっている
- 3.インプラントと骨が結合しない場合の対処法
- 4.インプラントと骨が結合しやすくする方法
- 4-1.経験豊富な歯科医師に担当してもらう
- 4-2.設備の整ったクリニックで治療を受ける
- 4-3.格安インプラントに注意する
- 4-4.骨量を増やす治療を受ける
- 4-5.強い衝撃など負担を与えない
- 4-6.禁煙する
- 4-7.持病を治療する
- 5.インプラントと骨の結合は治療成功のカギ!
1.インプラントが骨と結合する仕組みを解説

一般的にインプラント体には、「チタン」という金属が使われています。チタンは、人間の身体になじみやすい性質があり、体内で異物として認識されません。
そのため、骨折した骨が回復して再度くっつくような身体が治癒する働きが、チタンでつくられたインプラント体の周辺でも発生します。
骨は新陳代謝しており、常に新しい骨と古い骨が入れ替わっています。新しくできた骨がインプラント体のチタンを取り囲み、表面を覆う酸素分子と強く結びついて、チタンの細かい部分まで入り込むようになります。
このチタンと骨が結合する現象は「オッセオインテグレーション」と呼ばれ、現在のインプラント治療に欠かせません。
オッセオインテグレーションが完了するまでの期間は、あごの骨量や治療部位によって異なりますが、2~3カ月が目安です。また、あごの骨量が不足していて、インプラント手術時に、あごの骨量を増やす処置である「骨造成」も実施する場合は、結合するまでさらに1~2か月かかります。
2.インプラントと骨が上手く結合しない理由とは

オッセオインテグレーションは、インプラント治療の成功において重要な役割を担っていますが、何らかの理由で上手く進まない場合もあります。主な原因を紹介します。
2-1.骨の状態が悪い

歯周病であごの骨が破壊されている・骨粗しょう症などによって骨の生まれ変わりのサイクルが乱れているなど、骨の状態が悪い場合は、オッセオインテグレーションがスムーズに進みません。
2-2.オーバーヒートを起こしている

インプラント手術では、あごの骨にドリルで穴を開けてインプラント体を埋め込みます。ドリルによる摩擦で熱が発生するため、骨にダメージを与えないよう、水を注いで冷やしながら処置しなければいけません。
しかし、水による冷却が不十分な場合やドリルを骨に強く押しつけすぎた場合は、発生した熱で骨がやけどを負ったような状態である「オーバーヒート」になることがあります。
オーバーヒートを起こすと、骨が治癒する仕組みが上手く働かなくなり、インプラント体との結合が上手くいかず、抜け落ちてしまうリスクがあります。
2-3.埋め込み位置・角度が適切でない

オッセオインテグレーションがスムーズに進むかは、インプラント体の埋め込み位置・角度に大きく左右されます。
事前に結合が順調に進むよう位置・角度を決めますが、計画通りに埋め込みができない場合もあります。
不適切な位置・角度にインプラント体を埋め込むと、骨を突き出てしまったりあごの骨に過剰な負担がかかったりすることで、オッセオインテグレーションの妨げになるかもしれません。
2-4.初期固定に失敗した

「初期固定」とは、手術直後にインプラント体があごの骨に固定されることです。初期固定が上手くいかないと、オッセオインテグレーションに影響が出る可能性があります。
舌で手術した場所を押す・固いものを食べる・激しい運動をするといった行動により、衝撃や負担をかけてしまうと、初期固定が失敗するリスクがあります。
また、歯ぎしりや食いしばりなどの噛み癖があると、インプラントやあご骨に過度な力がかかってしまい、インプラント体と骨との結合に影響するかもしれません。
2-5.喫煙している

タバコには、血管を収縮させる作用のある「ニコチン」が含まれています。タバコをすうとニコチンの影響で血流が滞り、骨をはじめとする組織に酸素・栄養が届きにくくなります
骨の代謝に必要な酸素・栄養が不足した結果、オッセオインテグレーションが上手く進まない可能性があります。
2-6.糖尿病などの全身疾患にかかっている

糖尿病などの全身疾患にかかっている患者は、骨の代謝が滞る傾向にあり、オッセオインテグレーションが上手くいかない可能性があります。さらに、傷の治りが遅く、免疫力の低下により感染リスクがあります。
貧血の患者も体内の酸素不足が原因で、骨との結合が妨げられるケースが少なくありません。
身体の状態によってはインプラント治療が難しいケースもあります。
3.インプラントと骨が結合しない場合の対処法

インプラント手術後に、長い間違和感がある・インプラントがぐらつくといった異常が出る場合、オッセオインテグレーションが上手く進んでいない可能性があります。早めにインプラント手術を受けた歯科クリニックで相談しましょう。
インプラント体と骨の結合が失敗している場合は、一度インプラントを撤去して骨量を増やす処置などの治療後に新しいインプラントを埋め込む、インプラントを取り除いてから入れ歯やブリッジで歯を補うなどの対処をします。
4.インプラントと骨が結合しやすくする方法

オッセオインテグレーションをスムーズに進ませるためには、下記のような対策が効果的です。インプラントを成功させるために、ぜひ参考にしてください。
4-1.経験豊富な歯科医師に担当してもらう

インプラント治療を多数経験している歯科医師であれば、患者の状態からオッセオインテグレーションがスムーズに進むか見極められます。そのため、手術後に上手く結合しないリスクを軽減できます。
また、オーバーヒート・不適切な位置や角度への埋め込み手術中のミスによるトラブルが起きにくいのも大きなメリットです。
万が一、上手く結合が進まない場合も、経験を活かして適切に対処してもらえるでしょう。
4-2.設備の整ったクリニックで治療を受ける

優れた設備や機器を使用することで、より精密な治療ができ、オッセオインテグレーションの失敗の防止につながります。
なかでも特に効果的なのが、「歯科用CT」と「サージカルガイド」です。
・歯科用CT
CTで撮影した画像をコンピューター処理によって、立体的に構築する検査機器です。骨の量・厚さなど口の中の状態を高精度かつ正確に把握することで、インプラント治療ができるあごの骨の状態であるか・インプラント体を埋め込む最適な位置・角度はどこかなどを見極められます。
・サージカルガイド
口の中の3D画像をもとに作成したマウスピース型の器具です。シミュレーションによってインプラント体を埋め込む位置・角度を決めて作成し、ドリルをあてる穴を開けます。サージカルガイドを使うことで、事前に決めた通りにあごの骨に穴を開けられ、オッセオインテグレーションがスムーズに進みやすくなります。
4-3.格安インプラントに注意する

「格安インプラント」とは、1本あたり10万円前後など極端に安いインプラントを指します。
オッセオインテグレーションは、チタンの性質によって起きます。しかし格安インプラントのなかには、チタンがあまり含まれていない粗悪なものも少なくありません。
有名なインプラントメーカーのインプラント体は、チタンの表面をざらざらに加工するなど、骨との結合を促す工夫をしています。
さらに格安インプラントを行っている歯科クリニックでは、コストをおさえるために、手術前の検査を簡単に済ませる場合もあります。
こういった背景から、格安インプラントは一般的なインプラントと比べて、骨との結合が上手くいかないリスクが高いといえるでしょう。
4-4.骨量を増やす治療を受ける

事前の検査によって骨量が不足しているとわかった場合でも、骨を増やす「骨造成」をすることで、インプラント体と骨と結合しやすくなるケースもあります。
ただし、骨造成をする場合は、治療費用や治療期間などの負担が大きくなります。また、インプラント治療をしている歯科クリニックであっても、骨造成には対応していない可能性があります。高齢などにより骨量に不安がある方は、事前に骨造成についても相談しておきましょう。
4-5.強い衝撃など負担を与えない

インプラントを入れた場所に衝撃や負担を与えると、初期固定の妨げになり、オッセオインテグレーションに悪影響が及ぶ可能性があります。仮歯を揺らす・硬いものを噛む・あごの骨が振動するような激しい運動をするといった行動は避けましょう。
歯ぎしりや食いしばりといった噛み癖もインプラントと骨の結合に影響しますが、無意識の行動なので、自分の意思で改善するのは難しいものです。特に歯ぎしりは、睡眠中に起きるため、さらに改善の難易度が高いと考えられます。
歯科医師に相談し、寝るときに装着して歯を保護する「ナイトガード」と呼ばれるマウスピースを使用するのも方法のひとつです。
4-6.禁煙する

タバコによる血流の悪化は、オッセオインテグレーションの大きな妨げになります。骨との結合だけでなく、手術の傷口の治りが遅くなる・あごの骨を破壊する「インプラント周囲炎」を引き起こすなど、インプラント治療後の経過に与える影響は少なくありません。
インプラント治療を受けることが決まった時点で、なるべく禁煙するようにしましょう。もし難しい場合は、本数を減らすのも効果的です。
4-7.持病を治療する

糖尿病などの全身疾患によって骨代謝がスムーズにいかない・傷口の回復が遅いといった場合、病気を治療することで、インプラント治療への影響をおさえられます。
持病の主治医と歯科医師が連携して治療を行う必要があるので、持病がある場合や薬を飲んでいる場合は、歯科クリニックでの初診で必ず伝えましょう。
5.インプラントと骨の結合は治療成功のカギ!

インプラントと骨は、骨の代謝によってできた新しい骨がインプラント体に含まれるチタンの周りにつくオッセオインテグレーションが起こることで結合します。骨との結合が上手くいかないと、インプラントが安定せず、治療が失敗してしまうかもしれません。
しかし、骨の状態が悪い・骨量が不十分・オーバーヒートを起こしている・埋め込み位置や角度が適切でないといった理由で、オッセオインテグレーションが上手くいかない場合もあります。
骨との結合を成功させるには、経験豊富な歯科医師に担当してもらう・設備の整った歯科クリニックで治療を受ける・格安インプラントに注意するといった対策をしましょう。