抜歯した犬歯でインプラントは可能?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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犬歯は、前歯の真ん中から3番目に生えている、ひし形のようにとがった歯です。ものを噛み切る・奥歯を守るといった重要な役割を担っています。そのため、抜歯した場合は早めに対処しなければいけません。

 

しかし「犬歯を抜いた後、インプラントはできるの?」「どの治療法がいいのかわからない」など、抜歯後の治療に不安を感じている方も多いのではないでしょうか?

 

この記事では、犬歯とは何か・抜歯しなければならなくなる理由・抜歯した犬歯を補う方法・犬歯を抜歯したまま放置しておくデメリットなど詳しく解説します。

目次

1.犬歯とはそもそも何?どんな役割があるの?

犬歯は、前歯の真ん中から3番目、歯並びのカーブの角に位置する永久歯です。犬歯の前には前歯が2本、後ろには奥歯が4本生えています。

 

犬歯は槍のように先端が尖った形をしており、糸を切るときに使われることから「糸切り歯」とも呼ばれています。全ての歯のなかで最も根の部分と神経が長く、非常に丈夫な歯です。寿命も他の歯よりも長い傾向にあります。

 

犬歯には、食べた物を切り裂いて小さくする・歯を噛み合わせた時に奥歯の位置を調整し負担がかからないようにする(犬歯誘導)・下あごの位置や歯並びを決めるといった重要な役割があります。

 

下あごは頭蓋骨とじん帯・筋肉のみでつながっており、非常に不安定な状態です。犬歯の噛み合わせによって、下あごの位置が決まり、安定します。

 

このように、犬歯は食事だけではなく、口の中の健康を維持するうえでも非常に重要な歯なのです。

2.犬歯を抜歯しなければならなくなる3つの理由

犬歯は、食べ物を噛み切る・奥歯を守るなど、重要な役割を持つ歯です。丈夫な歯なので比較的最後まで残っている場合が多いものの、抜歯せざるを得ないこともあります。抜歯が必要な主なケースを3つ紹介します。

2-1.重度の歯周病になった場合

歯周病は、歯と歯ぐきの間に歯垢や歯石などの汚れがたまって、歯周病菌が増殖し、炎症が起きる病気です。最初は腫れや赤みなど軽い症状があらわれますが、次第に重症化し、歯ぐきやあごの骨が破壊されます。あごの骨量が減ることで歯を支えるのが難しくなり、歯がぐらぐらしたり抜け落ちたりしてしまいます。

 

重度の歯周病の場合、歯のクリーニング・殺菌作用のある薬剤による治療・歯石を取り除く外科手術などの治療をしても改善せず、歯を抜かざるを得ないことがあります。

2-2.重度の虫歯になった場合

虫歯が進行して神経にまで達すると、日常生活に支障をきたすほど強い痛みを感じる場合があります。神経が虫歯菌に感染した場合は「根管治療」が必要です。

 

根管治療とは、細菌感染した歯の神経を取り除き、再感染を防ぐために殺菌した後に密封し、かぶせものをする治療のことです。

 

歯の神経が虫歯になっても根管治療が成功すれば歯を残せますが、難易度が高く、失敗してしまう場合も少なくありません。失敗した場合は、抜歯となる可能性があります。

2-3.歯が折れた場合

歯が折れることを「歯牙破折(しがはせつ)」といいます。歯牙破折は大きく、歯ぐきの上に見える白い歯の部分が折れる場合と、歯ぐきの下にあるあごの骨の中に入っている歯根が折れる場合の2パターンにわかれます。

 

歯根が折れた場合は、詰め物などでは対処できないため、抜歯しなければいけません。

3. 犬歯を抜いた場合もインプラントは可能

重度の歯周病・虫歯や歯根の破折によって、犬歯を抜歯せざるを得ない場合は、歯を補う治療をしなければいけません。他の歯と同じく、インプラントや部分入れ歯、ブリッジによって歯を補います。それぞれの治療法について紹介します。

3-1.インプラント

インプラントは、犬歯を失った部分のあごの骨に穴を開け、歯根の代わりとなるインプラント体を埋め込んで、インプラント体とあごの骨が結合してから、人工歯をかぶせる治療法です。

 

噛む力を大幅に回復できる・見た目が自然など、メリットが多数あります。しかし、手術が必要である・治療費用が高いといったデメリットもあります。また、あごの骨の量が少ない場合などは適用できません。

3-2.入れ歯

入れ歯は、取り外しができる人工歯です。全ての歯を補う総入れ歯と一部分の歯を補う部分入れ歯があり、犬歯だけを抜歯した場合は、部分入れ歯を使用します。

 

部分入れ歯は、金具を両隣の歯にかけて固定します。ブリッジとは異なり、土台となる歯を削る必要はありません。 取り外して手入れができるため、清潔な状態を保てます。

 

ただし、インプラントやブリッジと比べて安定性が低く、噛む力が弱いという特徴があります。さらに、サイズが大きい分、見た目や使い心地の違和感が出やすい点も治療法です。

3-3.ブリッジ

ブリッジは両隣の健康な歯を削り土台にし、複数の歯がつながった人工歯を橋のようにかけ、歯を補う治療法です。

 

インプラントほどではありませんが、噛む力を大幅に回復でき、見た目も入れ歯と比べて自然です。

 

ただし、健康な歯を削らなければならないという大きなデメリットがあります。また、それまで抜歯した犬歯にかかっていた噛む力が、全て両隣の歯にかかるので、負担が大きくなります。その結果、両隣の歯が虫歯になったり破損したりしやすく、寿命が短くなる可能性があります。

4.犬歯を抜歯したまま人工歯を入れないとどうなるの?

犬歯は重要な役割を持つ歯なので、抜歯したまま放置すると、さまざまな悪影響が生じるでしょう。主なものを紹介します。

4-1.食事に支障が出る

犬歯は、食べたものを切り裂いて小さくする役割を持つ歯です。抜歯したままだと、ものを噛み切れず食事がしにくくなります。他の前歯で代わりに食べたものを切り裂く場合、犬歯よりも効率が悪いでしょう。

 

毎日の食事に支障が出るとストレスが溜まりますし、食が細くなるなど食生活に影響が出てしまうかもしれません。

4-2.発音しにくい

発声をするときは、喉を振動させて音を出し、歯・舌・頬・上あごの形によって音を変化させています。そのため、歯並びに異常があると、思ったように音を変化させられず、はっきりと発音するのが難しくなります。

 

歯が欠けた場合は、その部分から空気が漏れてしまうため、正しい発音ができなくなります。なかでも「サ行」は前歯をすり合わせて音を出します。犬歯は前歯の 1種なので、抜いたままにしておくと、「サ行」が発音しにくくなるのです。

 

さらに歯がない状態が続くと、そのスペースに舌を入れる癖がついてしまう場合があります。癖が原因で発音がしにくくなるリスクがあるので、早めに治療しましょう。

4-3.奥歯に異変が起きる

犬歯には、奥歯を守る役割があります。奥歯は噛む面が広く、すりつぶすような縦方向の動きに強い歯です。しかし、歯の側面から加わる横方向の力には弱いという特徴があります。

 

犬歯がなくなると、奥歯に横方向の力が加わり、ダメージを与えてしまいます。その状態が続くと、虫歯でもないのに奥歯がぐらつく・割れてしまうといったトラブルにつながりかねません。

4-4.あごの動きが変わる

下あごの位置は犬歯によって決まります。犬歯の大きな特徴は、他の歯よりも歯根部分が長く、強度が強いため、噛む力が大きくかかることです。

 

犬歯に噛む力がかかると、あごの筋肉に伝わり、下あごは縦方向に動きます。これにより、あごの動きが正常になり、位置がずれるのを防げます。

 

そのため犬歯がない状態が続くと、あごの位置が不安定になり、大きな負荷がかかります。あごの関節からかくかく・ぽきぽきといった音がしたり、痛みが出たりする場合があるので要注意です。

4-5.見かけに影響する

犬歯は生えている位置の関係で、口を開けた時に見えやすい歯です。さらに他の歯と比べて歯の根が長く太いため、抜けたままだと歯ぐきが落ち込んだようにくぼんでしまいます。その結果、見た目の印象を損ねてしまうかもしれません。

 

さらに時間が経つにつれ、輪郭が変化して老けた印象になる可能性があります。

5. 抜歯した犬歯をインプラントにするメリットとは

犬歯を抜歯した後に補う方法は、インプラント・入れ歯・ブリッジの3つです。なかでも適しているのは、インプラントです。その理由を説明します。

5-1.噛む力をほぼ元通りに回復できる

犬歯は食事をするうえで、で非常に重要な役割を持っている歯です。そのためできるだけ天然歯と変わらないレベルまで、噛む力を回復することが大切です。

 

インプラントは部分入れ歯やブリッジよりも安定性が高く、天然歯と変わらないレベルまで噛む力を回復できます。

5-2.長持ちする

入れ歯の寿命は4~5年、ブリッジの寿命は7~8年が目安です。それに対し、インプラントは9割以上が、治療から10年以上経っても使えます。なるべく長持ちする治療を希望する患者にとっては、インプラントが適しています。

5-3.周りの歯に影響を与えない

ブリッジによる治療は、土台となる両隣の歯を削る必要があり、歯を削ると歯の強度が下がります。部分入れ歯も、金具を両隣の歯に固定するため、ダメージを与えてしまいます。その結果、周りの天然歯の虫歯や痛み・破折のリスクが上がり、寿命が短くなることがあるので、注意が必要です。

 

インプラントであれば、犬歯を抜いた後のあごの骨にインプラント体を埋め込むため、他の歯への影響はほぼありません。

5-4.見た目が自然

犬歯は前歯なので食べる時や話す時に、人目につきやすい点を考慮する必要があります。部分入れ歯やブリッジは金属の金具が見えてしまい、やや不自然な見た目になる場合が少なくありません。

 

しかしインプラントであれば、歯ぐきから人工歯が生えているように見えます。人工歯にセラミックを使用することで、天然歯とほぼ見分けがつかないぐらい、自然な仕上がりになります。

6.抜歯した犬歯は、インプラントで治療するのがおすすめ!

犬歯は槍状に尖った永久歯で、前歯の真ん中から3番目に生えています。最も歯根が長い歯で、ものを噛み切る・奥歯を負担から守る・下あごの位置や歯並びを決めるといった役割があります。

 

重度の歯周病や虫歯、歯牙破折によって犬歯を抜歯せざるを得ない場合は、インプラント・入れ歯・ブリッジのいずれかで補います。

 

犬歯がないままにしておくと、食事に支障が出る・発音しにくい・奥歯に異変が起きる・あごの動きが変わる・見かけに影響するといったデメリットがあります。

 

犬歯を失った場合は、インプラントによって補うのがおすすめです。噛む力をほぼ元通りに回復できる・長持ちする・周りの歯に影響を与えない・見た目が自然など、入れ歯やブリッジにはないメリットがあります。

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