インプラントにフッ素歯磨き粉はNGですか?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラントを長持ちさせるには、日々のセルフケアが非常に重要です。ケア用品選びは、セルフケアの質を大きく左右します。なかでも、歯磨き粉の選択は特に気をつけるべきポイントです。

「インプラントを入れたら、フッ素歯磨き粉はNG」という情報を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

この記事では、フッ素歯磨き粉がインプラントにもたらす影響について詳しく解説します。適切な歯磨き粉や他のケア用品の選び方についても紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。

目次

1.インプラントにフッ素歯磨き粉を使ってよいのか

結論から言えば、インプラントを入れていても、フッ素歯磨き粉は問題なく使用できます。むしろ、フッ素歯磨き粉を使用することで、インプラント周囲の天然歯を虫歯から守る効果が期待できます。

インプラント自体は人工物のため虫歯にはなりません。しかし、周囲の天然歯を健康に保つことで、口の中の健康を維持でき、結果的にインプラントも長持ちしやすくなります。

2.フッ素歯磨き粉がよくないとされていた理由

過去には、インプラント後はフッ素歯磨き粉の使用を避けるべきだという考え方がありました。

その理由のひとつが2016年にフッ素研究会が発表した「9,000ppm以上の高濃度フッ素を含有するフッ素塗布剤では著しいチタンの腐食が認められ、pHと溶存酸素濃度が低い口内環境では、チタンの腐食がさらに進む」という報告です。

インプラントは主にチタンでつくられているため、「フッ素はインプラントに悪影響を及ぼす」というイメージが広がりました。

しかし、日本国内の製造販売認証基準では、歯磨き粉に含まれるフッ素濃度は1,500ppm未満と決められています。そのため、チタンの腐食につながるフッ素濃度9,000ppm以上の歯磨き粉は、日本では市販されていません。日本製の歯磨き粉を使用している場合、フッ素歯磨き粉によってインプラントに悪影響が出るリスクはほとんどないでしょう。

むしろ、日本口腔衛生学会では、インプラントをはじめとするチタン製の歯科材料を使用している患者についても、フッ素歯磨き粉の使用を推奨しています。

主な理由は下記の2点です。

 

(1)だ液によってさらにフッ素濃度が薄まるため腐食するリスクが低い

(2)天然歯の虫歯を防ぐ効果があり、残っている歯の本数によってはインプラントが腐食するリスクよりも虫歯予防のメリットの方が大きい

 

ただし、セルフケアや歯科クリニックでの定期メンテナンスを怠ると、ごく小さな腐食の部分に汚れが溜まり、細菌が増えるリスクがあります。

また、歯科クリニックでは、高濃度のフッ素を使用した治療を行っています。通常、インプラントを入れている場所を保護してから、使用するので問題はありません。ですが念のために受診時は、インプラントを入れている旨を申告しましょう。

3.フッ素歯磨き粉を使うメリット

インプラント後のフッ素歯磨き粉の使用は、虫歯予防の観点から日本口腔衛生学会でも推奨されています。フッ素歯磨き粉のメリットについて、詳しく解説します。

3-1.虫歯予防効果がある

フッ素には、歯のエナメル質を強化し、虫歯への抵抗力を高める効果があります。エナメル質は酸に弱い性質があり、虫歯菌がつくる酸に溶かされて、虫歯ができます。

 

しかし、フッ素がエナメル質に含まれる成分と結びつくことで、酸への耐性が上がり、虫歯ができにくくなります。

3-2.初期の虫歯を修復する

歯の表面では、エナメル質に含まれるカルシウムやリンといったミネラルが溶ける「脱灰(だっかい)」と、溶けだしたミネラルを再吸収して修復する「再石灰化」が繰り返されています。

 

脱灰した歯はもろく、力が加わったときに穴が開くといわゆる虫歯になります。

 

穴が開くと自然治癒しないため、脱灰した初期の虫歯の段階で再石灰化させることが大切です。フッ素には、唾液中のカルシウムやリンの再吸収を促す働きがあり、初期の虫歯の修復に効果的です。

3-3.虫歯菌の働きをおさえる

虫歯は虫歯菌が酸をつくることで起きる病気です。フッ素は、虫歯菌が酸をつくる際に必要な酵素の働きを妨げる働きを持っています。

フッ素歯磨き粉を使うと、虫歯菌がつくる酸の量が減り、虫歯ができにくくなります。

3-4.知覚過敏を和らげる

歯がしみるなどの知覚過敏は、歯の表面のエナメル質がはがれて象牙質が露出することで起きます。

フッ素は歯の表面にあるエナメル質を強化・修復する効果があるため、象牙質の露出を防ぎ、知覚過敏の症状を和らげる効果が期待できます。

4.インプラント後に歯磨き粉を選ぶ際の注意点

インプラントが入っていても、フッ素歯磨き粉を使用できますが、具体的にどのようなものを選べばよいのでしょうか。インプラント後に歯磨き粉を選ぶ際の注意点を紹介します。

4-1.研磨剤が入っていないものを選ぶ

研磨剤入りの歯磨は、ホワイトニング効果のある歯磨き粉として販売されているものです。研磨剤は、歯の表面を削ることで、汚れや歯の黄ばみの原因となるステインを落とします。

 

歯を白くする効果がある反面、歯の表面に傷がつき汚れがつきやすくなったり、歯ぐきを傷つけたりするリスクもあります。

 

インプラント後に研磨剤入りの歯磨き粉を使うと、インプラントの表面が削れて汚れや細菌が付着しやすくなる、インプラントと歯ぐきの隙間に入りみ炎症を引き起こすといった危険性があります

 

インプラントに細菌が付着すると、歯周病とよく似た病気であるインプラント周囲炎にかかるリスクが高まります。インプラント周囲炎は、歯周病菌がインプラント周辺の歯ぐきに感染することで起きる病気です。悪化すると歯肉やあごの骨を破壊するため、最終的にはインプラントが使えなくなる可能性があるので要注意です。

 

成分表のところに「炭酸カルシウム」「ケイ素」などという表記がある歯磨き粉は、研磨剤が含まれている可能性が高いのでなるべく避けましょう。

4-2.顆粒入りのものは避ける

顆粒入りの歯磨き粉の多くは、研磨剤が含まれています。

また、粒がインプラントと歯ぐきの間に入り込み、炎症の原因となる場合があるので要注意です。特に粒が粗い歯磨き粉は、リスクが高い傾向にあります。

さらに顆粒によってインプラントが傷つくことで、汚れや細菌がつきやすくなり、インプラント周囲炎のリスクが高まります。

4-3.強い漂白剤を含むものは避ける

強い漂白剤入りの歯磨き粉のなかは、一時的に天然歯を白くできるものの、色がまだらになる・今まで以上に着色しやすくなるといったデメリットがあるものも存在します。

また、インプラントの漂白剤の成分によってインプラントの固定部分がダメージを受ける、インプラントと天然歯の色のバランスが崩れるといったデメリットも考えられます。

4-4.海外製の歯磨き粉は成分を確認してから使う

日本で販売されている歯磨き粉に関しては、含まれるフッ素の量が決まっているため、インプラントへの影響を心配する必要はありません。

しかし海外製の歯磨き粉は、インプラントに影響する量のフッ素が含まれている、表示よりも多いフッ素が含まれているといった可能性があります。

海外製の歯磨き粉は、念のために歯科医師に確認してから、使用するようにしましょう。

5.インプラント後のケア用品を選ぶポイント

インプラント後のケアに必要なのは、歯磨き粉だけではありません。主なケア用品について、選ぶ際のポイントを紹介します。

5-1.歯ブラシ

硬い毛の歯ブラシはインプラント周囲の歯ぐきを傷つける可能性があるため、柔らかい毛の歯ブラシがおすすめです。特に手術直後は、口の中がデリケートな状態のため、硬い毛の歯ブラシは避けましょう。

また、小さなヘッドの歯ブラシは、細かい部分まで丁寧に磨くことができ、インプラント周囲炎や天然歯の虫歯を予防するのに効果的です。

電動歯ブラシも一定の力で効率的に磨けるため、口の中を清潔に保てます。

5-2.デンタルフロス

デンタルフロスは、ナイロンの繊維をより合わせてつくった糸状のケア用品です。歯ブラシでは届かない歯と歯の間の汚れをしっかり除去できます。

デンタルフロスを初めて使う場合は、持ち手がついたホルダータイプのものが使いやすくておすすめです。

ワックス加工されたものを選ぶと、インプラントの隙間にフロスが引っかかりにくく、スムーズに使えます。

5-3.歯間ブラシ

歯間ブラシとは、歯と歯の間に入り込み、狭いスペースを掃除するためのケア用品です。歯間ブラシを選ぶ主なポイントは、インプラントの隙間に合ったサイズを選ぶ 、奥歯のインプラントに使用する場合はブラシと持ち手に角度があるL字型を選ぶの2点です。

迷った場合は、インプラント専用の歯間ブラシを選ぶのもおすすめです。

6.インプラントにはフッ素歯磨き粉がおすすめ!迷ったら歯科医師に相談しよう

インプラント後にフッ素歯磨き粉を使うのは、NGではありません。むしろ虫歯予防効果がある・初期の虫歯を修復する・虫歯菌の働きをおさえる・知覚過敏を和らげるなどメリットが多いといわれています。

インプラント後の歯磨き粉選びは、研磨剤が入っていないものを選ぶ・顆粒入りのものは避ける・.強い漂白剤を含むものは避ける・海外製の歯磨き粉は成分を確認してから使うの4点を意識しましょう。

また、歯ブラシ・デンタルフロス・歯間ブラシについても、素材や形状などに注意して選ぶのをおすすめします。

歯磨き粉などのケア用品選びに迷ったら、歯科医師に相談しましょう。口の中の状態などを考慮して、ベストなものを提案してもらえます。

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